約 2,512,771 件
https://w.atwiki.jp/nanadorakari/pages/60.html
エンディング後の世界を扱っていますので【ネタバレあり】です。 固有名詞一覧 ・ケビン 眼鏡ヒーラー♂ ・モル 金髪ロリヒーラー♀ (名前は公式ちびキャラトークより) エロは微エロ、グロ表現あり(治療風景) 前述どおりエンディング以降のネタバレあり 午後『お客さん』が一体搬入されてきた。 薬品の刺激臭と、肉の生臭さ、血の鉄臭さが混ざり合った空間。 ここはヒーラーのもう一つの戦場、治療院。 それにしても、今日の『お客さん』は実に酷い。 ヒトの屍体と言うより、コレはもう単なる一山の肉塊だ。 施術台の上よりは、肉屋の軒先で量り売りされている方がよっぽどお似合いだろう。 屍体は十分見慣れたつもりだったけど、ここまでヒデェのを見ると流石にくらくら来る。 このバラバラの肉片を、組み立てて一個の人間の形に仕上げ、なおかつ蘇生させる。 それが今日の僕たちの――師匠と、僕の仕事だった。 モル治療院。 ウチの師匠のモル様は他のヒーラーがさじを投げた患者(っていうか大抵は屍体だ)さえも治癒してのける凄腕なのだ。 ……ただし、超ボッタクリの。 「あー、こりゃデスシザースに殺られたか?」 師匠はそのちいさく白い手で、施術台に乗っけられた肉塊の一つを掴み、検分していた。 「ええ、お連れさんが、ゼンダ竹林でやられたみたいな事言ってましたけど……何で分かるんです?」 急な『来客』に、ぐうたら寝こけていた師匠をたたき起こしたのがついさっき。 『お客さん』の死亡状況はまだ僕しか聞いていないはずなのに。 「ここの切断面見てみな。アイツのハサミにやられたら、こんな感じにスパっといく」 「なるほど。だけど、蟲の類にやられたにしちゃ、屍体に喰われた跡がない様な……」 「アイツぁな、ああ見えて草食なんだよ。だからこそ、てめえのエサのゼンダ竹に手ェ出すやつは許さねえ」 「へぇ……」 充満する血と肉の匂いに包まれながら、僕は師匠の言葉に耳を傾けていた。 言葉使いこそ少々荒っぽいものの、声そのものは少女のそれ。 スプラッタな状況に少々参りかけていた僕は、ついついそのソプラノに安らぎを求めてしまっていた。 「曲かけろ」 師匠の端的な指示。こういうときにはすっごい頼もしい。 「了解。なんにします?」 「灼熱――いや、やっぱ風と木」 ふむ、僕たち自身の手を早めるよりも『お客さん』の体力を優先する判断か。 僕の手指がプレロマ特製『音の出る機材』のボタンをあれこれ弄ると楽曲が流れはじめた。 生身のプリンセスの歌謡には及ぶべくもないが、この『機材』からの聖歌でも気休め程度の効果はある。 とは言え、間違いなく大施術になる。その気休めが成否を分けるかもしれないわけで。 風と木の詩。 聞くものの生命力を高め、その優しくも力強い調べは死者の肉体すら賦活する……って…… ……あの、動き始めたんですけど。バラバラ屍体が。 いやいやいやいやいや。 コレはない。 無しにしてください。 賦活化された肉片がそれぞれビクビク動き出すとか、それどこの怪談ですか。 「ケビン。なぁにボサっとしてんだ。『お客さん』眺めてる暇あったらとっとと手ェ動かせ」 「すみません師匠僕コレ絶対無理です」 「ンなモン単純な反射で動いてるだけだろうが! ヒーラーが屍体相手にビビってんじゃねえよ!」 呆然としていたところを、師匠ににらまれた。 にらまれるままに、彼女の翠緑の瞳を眺め続けていたいと言う欲求に駆られたが、 どうにかそれを振り切って作業に取り掛かる。 ウチの施術室の機材や台は師匠の背丈にあわせて、ちいさなサイズのもので統一されてるもんで、 師匠よか頭二個分大きい僕が作業するには少々しんどい。 「とりあえず……パーツごとにミルロメディス注射しときましょうか?」 「それと破損部にヒュプノ結晶粉末塗って賦活を促進させとけ。ついでに動くと邪魔だし麻酔も微量な」 なるほど、既に作業をはじめていた師匠の傍らにはおとなしくなった身体部位がいくつか転がっている。 蠢く肉塊に触るのは正直おっそろしいが、どうにか薬品を注入し、肉片の痙攣をおさめていく。 「それ……と、それ。接合するから肉切開して骨を露出しとけ」 師匠の指が、二つのパーツをそれぞれ指差す。 「針は何番です?」 「五番。糸はフロワログラス」 師匠は恐るべき事に骨さえ縫う。 縫って繕いつなぎ合わせる。 師匠の手の中で鋭い真鉄の針がひるがえり、強靭な蝶の繭糸が明かりを照り返してきらきらと光る。 豊富な経験と失敗を恐れないクソ度胸、そして何より施術者の人間離れした握力。 これらが揃って初めてなしうる文句なしの神業だ。同職として正直、見惚れる。 「うわっ……」 僕は僕で作業を進めていたが、何個目かの肉塊を手にしたとき、驚きのあまり取り落としかけた。 他の肉塊に比べてもひときわ大きく重いそれは、ヒトの頭部だった。 「師匠、この人、顔面がヤバイです」 と、いっても、とんでもないブッさいくというわけではない。 「おいおい……かじられてんじゃねえか。脳は無事か? 頭やられてると流石にどうにもならんぞ」 野犬の歯型だろうか。顔面がごっそり削り取られて大変無残な有様になっていた。 「たぶん……兜かぶってたみたいで頭蓋の中身は大丈夫かと。でもどうしましょう、コレ?」 「……ったく、重要器官の損傷と欠損は最初にチェックしとけって、いつも言ってんだろうが」 「う、すみません……」 頭はひねりつつも、師匠の手は流れるように動き、次々に屍体を縫い合わせていく。 「ケビン。おまえがやれ。得意だったろ顔面整復」 「待ってください僕ですか。生体の整復なんてやったことないですよ」 ダンジョンで拾ったしゃれこうべの生前の顔を想像し、そこに粘土で肉付けする訓練はさんざんやった。 自信もある。だけど、生身の顔に文字通り“肉付け”するってのは初めての経験だ。 「見りゃわかんだろ? あたしは“首から下”で手一杯。おまえ以外の誰が手ェ空いてるってんだ?」 「でも……」 「デモもストもない! やれっつったら、や・れ!」 まずい。師匠本気で怒りかけてる。 確かに『お客さん』の状態を考えれば一刻一秒を争う。僕がぐちぐち悩んでる暇なんてない。 「だけど、整復ってことはドラゴン幼体……つかうんでしょう? 良いんですかこんな高い薬剤」 ドラゴン幼体はいわば生体向けの充填剤だ。 筋肉の欠損部分に植え付ければ数分で馴染んで一体化し、文字通り“肉付け”できる。 しかるべき手順で精錬すれば最高級の戦場覚醒剤にもなるのだが、 腕の立つ冒険者が減った昨今では滅多に採取される事がなく、べらぼうに高価な品だ。 「良いも悪いもそれしかねぇだろ。後でコイツらからキッチリふんだくれ」 いいながら師匠は、だいぶヒトの形になってきた『お客さん』を指差す。 「払えますかねえ……」 ゼンダ竹林で死んだってことはそこそこ稼げるパーティなんだろうけど、 それでもかなり厳しい金額になるんじゃないだろうか。 「払わせる」 断言。師匠は絶対金を回収する自信があるみたいだった。 「ま、一応、担保は取っておくか」 「担保って……いつものアレですか?」 「いつものアレだ。つーか、くっちゃべってる暇があったら、いいかげん自分の仕事しろ!」 「はっ、はい!」 おしゃべりが過ぎたようで、叱られた。 自分の仕事に集中する。皮は剥がれ、肉はこそげ、一部、頭骨さえ露出している グロいお顔とにらめっこし、もともとの筋肉の流れにそって幼体をすり潰したペーストを植え付けていく。 機材から流れる『風と木』のおかげか、僕の心にも妙な高揚が生まれ、それが更なる集中を呼び込んだ。 「よしよし、上手いもんじゃねぇか。折角だから前以上に男前にしてやりな!」 僕の作業を覗き込んだ師匠から激励を受ける。 「はは、了解です」軽く笑って応じれば、 「ふふっ」師匠はにっこり微笑み返してきてくれた。 嗚呼、この人の笑顔と笑い声にだけはホントどうにも逆らえない。 まだまだ作業途中だというのに、師匠に出来栄えを褒められた事が嬉しくてならない。 一見小さなおんなのこにしか見えないこの女性に、本気で惚れこんでしまってる自分を、僕は深く自覚した。 3時間後に施術はつつがなく終了し、更にその38時間後 白銀水の浴槽に漬け込んでおいた『お客さん』は無事に蘇生した。 ♂♀ ―― つつがなく行かなかったのは、むしろ施術のあとだったわけで。 「だから兄ちゃんよ。払わないとは言ってないだろ? 高すぎるって言ってんだ」 『お客さん』の蘇生直後。 応接室のソファーで向かい合いつつ、顔面整復時にさんざん眺めたあのときの顔と僕は再びにらめっこしていた。 眼輪筋が無駄にぴくぴくしてるのは、僕の施術が未熟だったせいか、このファイター氏が怒ってるせいか。 ……やれやれ、元気なものだ。数日前にはバラバラ屍体だったとはとても思えない。 「ですから、先ほどからご説明させて頂いてますけど、薬剤だけで通常蘇生に必要な量の10倍は使用してるんです」 「じゃあ結晶10個分でだいたい3万5千ってトコでしょう? それがどうして12万にもなるのよ」 ファイター氏の肉塊を持ち込んだ、ローグ嬢がぶーたれる。 手間賃、ってモンを考えて欲しいなあ。 「技術料と、言うのもありますが、例えばその顔――」と、僕は鏡を取り出しファイター氏に手渡して、 「――顔の半分ぐらいがうっすらピンク色でしょう? 鼻から下がごっそりなくなってたんですよ。あなたの顔は」 その光景を想像したのだろう、血色の良かったファイター氏の顔が見る見るうちに青ざめる。 「……たいした腕じゃないか兄ちゃん。元通りの男前だぜ」 本人が言うなら、顔の造形はまずまずだったらしい。 「顔だけじゃなく、左の前上腕と側腹部の一部も欠損していました。 それの修復に入手の非常に困難な薬剤を使用してます。今回の施術料の大半はその薬剤だと思っていただければ」 「うーむ、確かにそれなら高いのもなあ……」 「ちょっと待ってよ」 ようやくファイター氏を丸め込めそうだったのに、そこにローグ嬢がわって入ってきた。 「私はそんな高いクスリ使えって、頼んだ? 勝手にそんなの使われても困るんだけど」 生き返ったらすぐコレだ。 “お願い! なんだってするからこの人を助けてあげて!”と、 半狂乱になってウチに駆け込んできた時のことをもう忘れちゃったんだろうか。 たかが数日前のことなのに。 「いえ、貴女は同意してますよ。施術前にこちらの書面に署名いただいたはずです」 僕はぺら紙一枚を彼女の眼前に突きつける。 用紙には専門用語と法律用語がずらずらずらと書き連ねてあるが、要点をまとめると二つ。 施術に失敗しても文句言うな。 施術にいくらかかっても文句いうな。 そんな内容を、多少オブラートに包んで、なおかつ分かりやすく彼女に伝える僕。 「――と、まあ、こちらに書いてありまして」 「そんな小さな字……いちいち読んでるわけが……」 ないでしょうね。 あんなボロボロ泣きながらでは、まともに書面など目も通せてなかっただろうし。 「だいたい前金だけで2万も払ってんのよ。これ以上ボッタくろうっていうの?」 「まあ、兄ちゃん……いくらなんでも高すぎらァな。ちょっと宿のほう帰って仲間と相談してきていいか? な?」 ファイター氏の目が泳いでるのは、僕たちの施術が不完全だったワケでもないだろう。 まずいなあ、たぶんこのまま逃げる気だ。 「ではせめて、質草がわりに装備一式置いてっていただけます?」 「いやいや兄ちゃん。商売道具取られちまったら稼ぎたくても稼げねえぜ?」 まったく、ああいえばこういう。これだから冒険者って人種は……。 「兄ちゃんよ。だいたいココは闇医者だろう? 書類書類というけれど、出るトコ出たら困るのはそっちだろうが?」 う……痛いところを付くなあ。確かにウチは大統領府未認可の治療院だけど。 こんこん。 頭をひねって悩んでると、ノックの音に思考を中断させられた。 「入るよ」 ノックと共に応接室に入ってきたのは師匠だった。 なにやら生体保存用の保冷箱を抱えてるけど……いつものアレか……。 そのまま、ちょこちょこと部屋を横切って僕の座ってるソファの横に腰掛けると、 箱を机の上に投げ出し、挑発的な笑みをファイター氏に投げかけた。 「話は聞こえてきてたけどさ、あくまで踏み倒すつもりかい?」 「踏み倒すたァ、聞こえが悪いなお嬢チャン。ちょっと帰って考えさせてもらうだけだって」 「それを踏み倒すっつーんだ。まあいい、担保はとってんだ」 「……担保?」 ワケがわからないと言う顔をするファイター氏。 そして、師匠はちらりとファイター氏の股間に目を向けたかと思うと 「ふふ、アンタ、またぐらの方がスースーするって思わない?」 ファイター氏は大きく目を見開いたかと思うとそのごっつい手の平で 自身の股間をバタバタと叩き、まさぐり、何かの確認をする。 「……ってオイ! ねえよ! 無え!!」 師匠は、脇においていた保冷箱のふたを開け中に納められていた肉片をつまんで それをファイター氏に見せ付けると、とびっきりの可愛らしい笑顔でこういった。 「これ、な~んだ♪」 師匠の指にぷらんとぶら下げられたそれは、サオ状の器官に、タマ形の器官、ソレを包む袋状の器官。 「てめえ、そりゃ俺の……」 「そ。アンタの『お宝』さ」 早い話が男性器ですね。 施術の最中に男のイチモツを切り取って保管しておく。これが『いつものアレ』の正体だ。 さすがというかなんというか相変わらず、師匠はえげつないことをしやがります。 「返せ! 俺のチンポ返せ!」 「ちょっと、落ち着きなって! 相手は子供だよ?!」 ファイター氏が師匠に向かって飛び掛りそうになるが、ローグ嬢が慌てて抑える。 いやそのなんていうか心の底から同情します。同じ男として。 師匠は何食わぬ顔で、再び肉片を箱に戻したかと思うと 「返してやるさ。金さえ払ってくれりゃあね――」 そこで、くるりと僕のほうを向き 「――って、ウチのお兄ちゃんが言ってましたぁ♪」 僕!? 僕ですか!? そのタイミングで振ってくるとか止めてくださいよっ! あと、師匠のほうが僕よか5倍は長く生きてるはずなのに(自称)何が『お兄ちゃん』ですかっ!? 「オイコラ兄ちゃんよ……何が面白くって、こんな真似してくれやがんだ、あァ?!」 ファイターさん、凄まないでください怖いので。 「だいたいこんな小さい子に、あんな事させるなんて……最低ね!」 ローグさん、にらまないでください怖いので。うわ僕なんかもう完全に悪者扱いですよ。 助け舟が欲しくて師匠の顔を見ると、すっごいニヤニヤしてます。楽しまないでください。この状況。 つまり『僕一人でどうにかしてみろ』って事ですね。やれやれ……。 「まあ、先ほど彼女が告げたとおりで。しかるべき代金を お支払いいただければ貴方の息子さんを無事にお返ししますが」 「テメエは人さらいか!」 ウィットにとんだジョークで場を和ませようとしたが、どうやらファイター氏はお気に召さないご様子。 「『お仕事』に関わる身体部位ではないでしょう? 手持ちがないなら頑張って稼いで来てくだされば」 「ションベンとかどうすんだよ!」 「ご心配なく。外陰部に女性のと類似な尿道口を整形してます。 まあ、女性と同じく座って排尿していただく事になりますけど」 「糞が……つーか兄ちゃんよ。このままテメェをぶちのめして力づくで 俺様のチンポ取り返しちまってもいいんだぜ? モノさえもらっちまえば、治療院はココだけじゃねえんでな」 ったく、実力行使のカードを切るのが早すぎるっての。コレだから脳筋は。 そんなん言われたら僕だって取れる手段が限られてくるってのに。 「……そこまでおっしゃるのなら、ご自由にどうぞ」 僕が一言告げると、師匠はそのまま無言で生体保冷箱をファイター氏へと差し出した。 オッケー、師匠が何も言わないって事はこの方向であってる。 「……お、お、お? ンだよ兄ちゃんやけに物分りがいいじゃねえか。ハナっからそうすりゃ良かったんだよ」 口笛さえ吹いて、上機嫌なファイター氏が保冷箱に手を伸ばそうとしたとき―― 「ただし、他所でくっつけても、せいぜいションベンの為の蛇口にしかなりませんよ、それ」 ――僕はなるたけ『悪徳医師でござい』という顔を作って、ファイター氏に言い放った。 「それって……どういう……」 ポカンとなったファイター氏の代わりにたずね返してきたのはローグ嬢の方だった。 「勃たなくなっちゃう……ってコト?」 「ご理解が早くて助かります。僕の首を賭けてもいいですが、他の治療院では切り落とした そのペニスに男性機能を取り戻すことはできませんよ。プレロマの技術を応用しましてね 生体プロテクトを施してあります。ウチ以外じゃまず解けませんよ」 横目で師匠の方をうかがえば、満足そうにニヤリと笑ってた。どうやらコレで正解のようである。 この人こういう嫌がらせが大好きなのだ。 「インポのチンポでよければどうぞ。ウチもこれ以上はお支払いを強制しませんので」 その一言が決め手になったのだろう。 一時間後にはウチのなじみの高利貸しから借金している『お客さん』達の姿があった。 ♂♀ そして、ファイター氏のペニスも無事に再接合したその日の深夜。 「寒い。そっち入るぞ」 師匠がノックもなしに僕の寝室に上がりこんできたかと思うと、開口一番そういった。 「どうぞ」 寝ぼけまなこを擦りつつそう答えると、師匠はあっという間にベッドの中に潜り込んでくる。 「おー、ぬくいぬくい」 「もうそんな季節ですか、一年って早いもんですね」 半ば竜である師匠の肉体は体温の維持を苦手とするらしく、寒さの影響をモロに受けて冬には目に見えて動きが鈍くなる。 こうやって、師匠が暖を求めて僕との同衾を強要するのは、個人的には秋の終わりの風物詩みたいなものだった。 「ンなもん序の口だ。ハタチを過ぎれば時間なんて週単位で飛んでくぞ。 三十路になりゃ月単位で吹っ飛ぶし、それよか年食いゃ去年の話も昨日の話みたいなもんだ」 「なるほど……師匠が言うと説得力があります」 「何をしみじみと納得してんだ……ったく」 百年を生きた魔女(自称)だと言うのに、そのむくれた顔は、肉体年齢である少女そのままに愛らしい。 「いや、流石に言うことが違うな、と思いまして」 「ふん…まぁいい。手はずは去年と同じだ。あっち向いてろ」 言われるままに顔をそむけ、背中を差し出すと、師匠はそっと抱きついてきた。 早い話が僕は一晩、彼女の湯たんぽ代わりになるわけだ。 「また無駄にでかくなりやがったな……硬いし、抱きごこちも悪い」 「……えと、なんかその、すみません」 幼い頃はすっぽり抱きかかえられていた僕の身体は、おととしには師匠に並ぶほどにすくすくと育ち、 とうとう去年には背丈は追い抜いた。今年もぐんぐん背は伸びて、最近では師匠を見下ろすほどになってしまった。 師匠にスパルタンに鍛えられたかいもあって、ゴツゴツと筋肉もついてきた僕の身体は、 確かに少女向けの抱き枕としては大きすぎるのかもしれない。 「せめてあたしも、もう頭一つ大きかったらなぁ……身体ちっさいと畜熱が難しくって好かん」 「でもほら、師匠の体って体積のわりに凹凸が少ないから、表面積も小さいし逃げ出す熱も少な、痛っ!」 殴られた。そりゃそうか。 「てめえ誰のカラダが平らだって?! これでもか?!」 あの、その、師匠。そんな思いっきり抱きつかれると、 脂肪分控えめとは言え二つの胸のふくらみがですね、僕の背中にですね、 「当たってます師匠! 当たってます!」 「当ててんだよ!」 僕の好み的には、凹凸がクッキリハッキリしてるのよりも、 むしろこのぐらい慎ましやかなサイズの方がジャストフィットと言うか、 ジャストフィット過ぎて僕の身体の一部がのっぴきならない状態にですね 「ヤバイです……その、勘弁してください」 「ふぅん……? ヤバイって、ココが?」 「あんっ」 師匠の手がするりと伸びて、僕の下着の中に侵入したかと思うと、元気になりつつある肉茎をきゅっと握る。 「気色悪い……野郎がそんな艶っぽい声出してんじゃねえ。しゃあねえ、勘弁してやる」 でも、そこで手ェ止められると生殺しって言うかですね、放置プレイっていうかですね。 「その、師匠……こんなんじゃ興奮して僕が眠れそうにないんですけど」 ここで食い下がっておけば、『じゃあお姉さんが、一本抜いて楽にしてあげる♪』みたいな展開も ほんのちょっとだけあるかもしれない。ほんのちょっとだけ。 しかし無慈悲にも、師匠は僕に抱きついていた手を離し、密着していた身体を遠ざけた。 「もういい。あたしの胸が気になるってんなら去年までとは逆でいくぞ」 「……逆?」 「お前があたしに抱きつけ。そんだけ身体育ったんなら、その方がきっと温いし」 それはそれで興奮モノでとっても困るって言うか嬉しいって言うか。 「ごちゃごちゃ抜かすな! お前の都合とか知ったことか!」 ええ、まあ、どの道僕には師匠の言うことに拒否権ってないんですけどね。 そして布団の中でごそりと寝返りをうった師匠の背中を、今度は僕の身体が包み込んでいく。 ちいさく、やわらかく、そしてちょっとつめたい。 ざっと体感で僕の体温より5℃ほど低いというところだろうか。 「おい、こら……変なモン当てんな」 当然というかなんと言うか、この状態で僕の剛直がおとなしくなってる筈もなく、 身体と身体が密着すると寝巻きごしとは言え、師匠のお尻を元気に突付いていた。 「すみませんでもコレ健全な成年男子のまっとうな生理現象――」 「健全な成年男子があたしのカラダで勃ててんじゃねえよ! このロリコン!」 「……いや、だって、この状況じゃ」 「言い訳はもういい。眠いし寝る。言っとくが変なところ触ったら殺す、 その変なモンそれ以上擦り付けたら殺す。とにかくあたしの安眠を妨害したら殺す」 自分のいいたいことだけ言い捨てると、師匠の身体はくてっと力を失い、愛らしい寝息を立て始めた。 どうやら生殺し確定のようです。今夜は。 だけどそのまま抱き続けているうちに、ちょっぴり冷たかった師匠の身体は僕の体温を吸い込んで温かくなり、 僕自身へと熱を反射するまでになってきた。これはこれで、いやらしくない意味で気持ちがいい。 なるほど。去年までの師匠の気持ちが良く分かる。 人肌の存在をその手に抱きかかえているというのは妙な安心感があるのだ。 その腕に抱きかかえた肉体の柔らかさと、肌に感じるヒトの熱と、 鼻腔に流れ込む少女特有の香りを味わううちに僕もいつの間にやら眠りについてて―― ――そして翌朝、目が覚めるとベッドの中でいきなり師匠と目が合った。 なんだ? 朝っぱらから様子がおかしい。 「オハヨウゴザイマス、師匠」 「おう、おはよう。大変ぐっすりお眠りあそばしたみたいだな、ええ、おい?」 森林の色をそのまま溶かし込んだような翠緑の瞳が怒りに燃えている。 しまった、寝ぼけて胸の一つも揉んでしまったとかだろうか? ちくしょう。どうせシバかれるんだったら、もっと意識がハッキリしてる時に揉みたかった。 「あの……何かやらかしちゃいました、僕?」 「何もなかった。何もなかったから睨んでんだ、わかるな?」 わかんないです。 「何もなかったんなら……良いことなのでは?」 「よかねえよ馬鹿。こんだけ分かりやすい据え膳出されといて、普通に寝る野郎がいるか?」 「でもその……昨晩は変な事したら殺す、って」 「だったらソレをちゃんと萎えさせとけ。一晩押し当てられてたこっちの身にもなれッてんだ」 言いながら僕の股間を師匠は膝でぐりぐり突付く……あ、確かにまだ硬いままですね、はい。 「使う気が無いならそもそも勃たせてんじゃねえ。襲われないってのも、それはそれでムカつくんだよ!」 「そんな、理不尽な……」 「ごちゃごちゃ言うならそれ以上勃たないように、素手での去勢を決行してやろうか、あァ?!」 「ごっ……ごめんなさいっ!!」 何が悪いんだかサッパリわからないけど、とりあえずこういうときにはあやまっておく。 師匠は布団をがばっと跳ね飛ばすとベッドから飛び降りる。 「あー、ちくしょう。そんなそこまで魅力ないか。あたしは……」 ウェーブのかかった金髪をカリカリと引っかきながらそうぼやく。 「大丈夫です師匠。僕的には、ばっちりストライクです」 たとえば寝巻きが少しはだけた薄い胸元が、そこはかとなくラブリーです。 言ったら殺されそうだから言いませんけど。 「お前にそんな事言われたって、嬉しくなんかねえよこのロリコン!」 どうしろと。どういえと。 その後、師匠はひとしきり怒鳴り終わると、ドスドス足音を踏み鳴らしながら僕の寝室から出て行った。 ああ、毎日が綱渡りだけど、とりあえず今朝も死なずにすんだらしい。 神様、ありがとうございます、今日も僕の命をつないでいただいて。 ♂♀
https://w.atwiki.jp/nanadorakari/pages/59.html
カザンの 兄想いの妹の兄×兄想いの妹。 正史とは違うもう一つのエンディングをイメージしてますが、ネタバレはないはず。 個人的にはハッピーエンドのつもりですけど、 見方によっては普通に鬱かもしれませんので注意してください。 いっそ世界なんて、なくなっちゃえばいい―― 私はかつて、そう思ったことがある。 ――と言ってもそれは遥か昔、まだ幼き日のことだ。 母親に叱られた。父親にげんこつを落とされた。 そんな他愛もない理由で、世界の終わりなんて大それたものを望んだあの日。 泣きながら家を飛び出しては途方に暮れ、夕方になると探しにきた兄に手をひかれて家路についた。 やがて少しずつ成長していくにつれて、私は当たり前のことを学んだ。 私がいくら自分勝手に望もうと、世界は終わりなんてしない。 それ以前に、「世界の終わり」を望むこと自体がなくなっていた。 厳しくも心の奥底では優しかった両親、いつも私を大切にしてくれる兄、 沢山の友達、楽しい毎日。 時々イヤなことはあったけれど―― それでもやっぱり、私にとって世界は輝いていたから。 なのに―― 私は、窓の外に視線を向けた。 視界に飛び込んでくるのは一面の花、花、花。 醜いかと言われるとそうではない。 むしろ、カラフルな原色に彩られたその花は、綺麗だと言ってもいいだろう。 だけど、すべてを飲み込むかのようにそこら一面に咲き誇るその姿は、今となってはどこまでも禍々しかった。 ”フロワロ”。 そう名づけられた、怪しい色彩を放つ破滅の花は、 一昨日よりも、昨日よりも、着実にその密度を増してきてるかのようだった。 もはやそれは、遠い国の御伽噺でも、遥か未来の話でも、一年後の話ですらなかった。 「世界の終わり」は、もはや目の前に迫っているのだ。 私は溜息をひとつつくと、カーテンをそっと閉めた。 この国、いや、この星のいたるところに、フロワロが咲き始めてもう三年以上が経つ。 街中でも時折見かけらるようになったその花は初めのうちこそ、 遠慮深げにひっそりと咲いているように私の目には映った。 次の日には大抵、誰かに駆除されてなくなってしまっていたけれど。 だから当時の私は、その花がそんなに悪いものだとは思えなかった。 それはきっと、私だけじゃない。 周囲の友達も、大人たちですらもみんなそうだったのだ。 結局のところ、何年後の破滅よりも明日の食事を心配しなくては、人は生きていけない。 この花が地上を覆い尽くす時、世界は滅びる―― なんてことを言われても、現実感がまるでなかった。 誰もが、うすぼんやりとしたぬるま湯のような淡い恐怖に侵されつつも、 心のどこかでは、「『誰か』が『なんとか』してくれるだろう」そう考えていたに違いない。 そして、その「誰か」は確かに現れた。 今は亡き大統領に見初められたというそのギルドは、三年間の沈黙ののち、 ――なんでも、フロワロの毒に侵され、眠っていたという話だ―― 世界各地のドラゴンを次々と倒し、フロワロを散らしていった。 かく言う私も、彼らにおおいに世話になった人間の一人だ。 彼らは、旅先で記憶を失い、音信不通になっていた私の兄を連れ戻してくれたのだ。 (この人たちならきっと、この世界も救ってくれる!) 私はそう信じた。 言葉にすると陳腐かもしれないけれど――彼らはまさしく、希望の光だったのだ。 やがて彼らは、決戦の地へと赴いた。 恐らくは、私のように平凡に生きてきた人間には知る余地もなく、 想像もつかないような、強大な相手の元へ。 私のかけた、「絶対に生きて帰ってきてね!」との言葉に 大きく頷いてくれた彼らの笑顔が、今でもこの目に焼きついて離れない。 そして彼らは――二度と戻ってこなかった。 彼らだけではない。 彼らの遅すぎる帰還を待てず、私でも名前を聞いたことのあるような有名ギルド、 「王者の剣」をはじめとして、無数のハントマンたちが彼の地に赴き、そのまま消息をたった。 たった一つのギルドの活躍で、一時期はほとんど地上から消滅しかけていたフロワロが、 再び蔓延して街中にまで我が物顔でのさばるようになるまでの間に、長い時間は必要としなかった。 そこでやっと、世界中の誰もがようやく気づいたのだ。 本当に世界は終わる、と。 それから後のことは正直、思い出したくもない。 恐怖と焦燥に狩られた人々は次々と暴徒と化した。 ドラゴンの襲撃を待たずして、人々は人間同士で勝手に奪い合い、犯し合い、殺し合った。 それはまるで、悪夢のようだった。 法も良心も、正義の二文字すらも、たちまちのうちに、まったく意味を成さないものと成り果てた。 今となってはもはや、大統領亡きあと、この国を救うべく奔走していたメナスさんの生死ですらさだかでない有様だ。 記憶を取り戻して家に帰ったあとは、ひたすらに私を護り続けてくれた ハントマンあがりの頼れる兄がいなければ、私もこうして無事ではいられなかっただろう。 あの凄まじいまでの暴動が起こったのは何日前のことだったか。 いや、何週間――? 絶望に満ちた日々の中で、もはや私の中からは、月日の感覚すらも消失しようとしていた。 記憶を取り戻して家に帰ったあとは、ひたすらに私を護り続けてくれた ハントマンあがりの頼れる兄がいなければ、私もこうして無事ではいられなかっただろう。 あの凄まじいまでの暴動が起こったのは何日前のことだったか。 いや、何週間――? 絶望に満ちた日々の中で、もはや私の中からは、月日の感覚すらも消失しようとしていた。 両親は既に何年も前に亡くなっていたし、友達と呼べる人もいなくなってしまった。 今の私に残されたのは、兄だけだ。 『コンコンコン』 その時、家のドアがノックされた。 私はハッとしてその方向を見つめる。 一瞬の沈黙、そして再度ドアが叩かれた。 『コンコンコンコンコン』 私は動かない。 まだドアを開けてはいけない。 『コンコンコンコン』 ――兄だ。 どうやら、食料の調達から戻ってきたらしい。 「いいか、3回、5回、4回の順にドアをノックするのが僕だ。 それ以外は絶対にドアを開けるんじゃない」 破滅に向かう世界の中で、私と兄の間に生まれた約束事。 私はほっと一息つくと、ドアに歩み寄り閂を開いた。 「おかえりなさい、おにいちゃん。 今日は早かったね、もっと遅くなると思って……」 ドアの中に素早く滑り込んできた男の姿を見て、私は凍りついた。 (違う、おにいちゃんじゃ……ない……!) 「やあ、久しぶりだな」 私の目を覗きこむように見据えて口元を歪ませた その男は、隣の家に住む男だった。 どうやら私に好意、というよりは邪な感情に近いものを抱いていたらしく、 無遠慮な視線を向けてくるようなこともあり、 決して好ましいタイプではなかったが、毛嫌いするほどでもなかったので、 会えば挨拶ぐらいは交わす、そんな普通の隣人だった。――かつては。 だが、今の彼は、例に漏れず、すっかり変貌を遂げていた。 ただ生き延びるだけで、様々なことがあったのだろう。 バサバサの髪、ボロボロの衣服、そしてなにより、焦点の定まらない血走った目。 この人はもうまともじゃない――私の理性はそう判断した。 「どうして……?」 自分でも意識しないまま、呟きが口から漏れる。 様々な意味を内包しての言葉だったが、彼は勝手に独自の解釈をしたようだった。 「ああ。どうして合図を知ってたかって? 君のお兄さんが、家に帰る時にこうやってドアを叩いてるのいつも確認してたからな。 隣に住んでるんだから、それぐらいはわかるさ。 最近、物騒になったからなあ、怖いよなあ。 やっぱり、用心はしなきゃだよな、え?」 言いながら、じりじりと私の方へと間合いを詰めてくる。 「お願い……ここから、出て行って……」 私は既に、涙声になっていた。 舐めまわすような目で見られるだけで、体の震えが止まらない。 「やだなあ。どうしてそんなこというのかねえ。 隣同士じゃないか……俺は、君を守ってあげてもいいって考えてるんだぜ? ……なあ、こっちに来いよ、俺を信じてさ」 「結構です! 私には、おにいちゃんがいるんですから! あなたの助けなんて……必要としてません!」 「そのお兄ちゃんは、君を一人にして、出かけてるんじゃないか? だから君は一人きりでこうして震えてるんだろ? 可哀想に……遠慮しなくていいんだぜ」 「遠慮なんかじゃありません! お願い……私はただ……おにいちゃんと静かに暮らしていたいだけなの……」 「いいからこっち来いってば、俺の家に来いよ」 「………! やっ、離してっ!」 右腕を掴まれた私は、反射的に反対の腕で男の頬を思いっきりはたいていた。 パチンという音が室内に響き渡る。 だが、音こそ派手ではあったものの、そんなか細い一撃は所詮逆効果でしかなかった。 「ってぇ! ンのアマ! 大人しくしてりゃあつけあがりやがって!」 「きゃっ! やめ……て! 放して!」 必死で抵抗するが、大の男の力に抗えるはずもない。 私はたちまち、ベッドの上に押し倒され、押さえ込まれてしまう。 両肩を大きく上下させてる男の荒い息が顔にかかり、あまりの不快さに顔が歪む。 「大人しくついてくれば家で可愛がってやろうと思ってたが…… そんな態度に出るんじゃしょうがねえな。この場で犯してやる」 「やあ…… 許して……くだ、さい…… おねがい、します……」 「誰がやめるかよ、バカ」 「んっ……んぐぅ………ぅぅぅ……!!!」 無理やり口付けされ、ぬめっとする舌が私の口中まで入ってきた。 そのおぞましさに全身の毛穴がぞわっと開く。 噛み切ってやる、そんなことすら考えられなかった。 「はぁ……はぁ…ははっ! お前はもう、俺のものだ! あはははははひゃはひゃひゃ!」 狂ったように笑いながら、男は乱暴に私の衣服を引きちぎった。 ボタンが弾け飛び、胸があらわになる。 「けっ、思ったとおり貧相な胸だな! それでも相手にしてやるんだからありがたく思え」 男は悪態をつき、私の胸にむしゃぶりついてきた。 乳首を乱暴に舌先で弄くり、品のない音を立てて吸い上げる。 まだ誰にも触れさせたことも――見せたことすらなかったのに。 あまりの羞恥とくやしさと情けなさで、頭の中が真っ白になる。 「さあ、こっちの方はどうだ」 とうとう男の手が、下半身まで伸びてきた。 きつく太股を締め上げようとしても、哀しいほどにあっさりと突破されてしまう。 男の手は、私の一番敏感な部分を直接撫で上げた。 再び走る悪寒。一瞬のうちに全身が総毛立つ。 「案の定、だな。毛も生え揃ってやしねえ。 まだ濡れてもいないようだが……なに、すぐ気持ちよくなって俺のを欲しがるようになるぜ」 「いい加減に……して!」 これがきっと最後の虚勢だ。今にも折れそうな心をなんとか奮い立たせて私は男を睨み付ける。 「いつまでも意地はっててもしょうがねえだろ? どうせ、もうすぐなにもかもおしまいなんだ。世界が終わってしまう前に、最期にいい思い出作ろうぜ」 世界が――終わってしまう前に? 冗談じゃない。 最後に私が望んでいることはのは――こんなんじゃ、ない―― 「おにいちゃん……たすけ……て……」 「おいおい、いい加減に諦めろよ。 そう都合よく助けになんて来るわけねえだろ。案外あいつだって今頃、他の女を襲ってたりして……」 「……誰が他の女を襲ってるって?」 静かなトーンの、しかし背筋を凍らせるほどの殺意に満ちた声が男の背後から聞こえた。 「え…… ……………ぐぉぇっ!」 振り向いたその顔面に横殴りの正拳が打ち込まれ、男は派手に吹き飛んだ。 そこに立っていたのは、おにいちゃん。 私と男が気づかないうちに帰宅し、異変に気づいて男の背後まで迫ってきていたのだ。 「貴様……よくも、よくも……ッ!」 「お……にいちゃん!」 「くっ…… もう大丈夫だ……少し待っててくれ。 今すぐこいつを、殺してやるから!」 おにいちゃんは言うが早いか、渾身の一撃を受けて起き上がれずにいる男の上に 馬乗りになって、顔面に何度も拳を叩き込んだ。 「この外道がッ! よくも妹にぃぃぃ!」 鬼気迫る表情で、取り憑かれたように拳をふるい続けるおにいちゃん。 不意をつかれて先手を奪われた男はもはや、反撃も、逃げることも出来ずただただ一方的に殴られていた。 一発殴られるごとに血と前歯が飛び散り、顔面がドス黒く腫れ上がっていく。 「おにいちゃん、もうやめてっ! 死んじゃうよっ!」 「だけどこいつ……お前のことを……!」 「もういい! もういいの! 私は大丈夫だから……おにいちゃんのそんな姿なんてみたくないの……!」 おにいちゃんはまだ怒りに拳を震わせながら、それでもようやく、 一心不乱に男を殴り続けていた手を止めてくれた。 変わりに男の襟首を掴むと、ぐいと引き寄せて言う。 「おい……妹に感謝するんだな。 早くここから出て行け! そして二度と僕たちの前に姿を現せるな……! もしその薄汚い姿を次に見かけたら、次は妹が何を言っても僕が許さない……わかったな?」 男は鮮血に染まった顔で、弱々しく何度も首を上下させた。 「ふん……さあ、早く消えろ!」 壁に突き飛ばされ、よろよろとおぼつかない足取りで外へ消えていく男。 おにいちゃんは外まで出てその姿を確認すると、しっかりと戸締りをして私のもとまで戻ってきた。 服がボロボロになってしまった私に、そっと自分の上着をかけてくれる。 「……すまない、僕が遅くなったせいでこんな目に……!」 「ううん、ドアを開けちゃった私が悪かったの…… あはは……なんか合図をこっそり見られてたみたいで……」 「………くそっ」 「……そんな顔しないで、おにいちゃん。 私、ほんとに大丈夫だよ」 間近に、おにいちゃんの心配そうな顔が近づく。 ああ―― いつもの、慈愛に満ちた目だ。 優しく私を見つめて、いつもどんなときも護ってくれる、 私の知ってる、一番大好きなおにいちゃん。 「一時はもう駄目かと思ったけど…… その…………最後までされてないから」 「……そ、そっか」 気まずそうに目をそらして頬を掻くおにいちゃん。 こんな場合だというのに、そんなおにいちゃんがなんだか可愛くて 私はほんのちょっとだけ吹き出しそうになった。 「助けてくれてありがと……おにいちゃん」 私は、おにいちゃんのたくましい胸の中にもたれかかる。 おにいちゃんは、ちょっとぎこちない動きで、それでも私をそっと抱きしめてくれた。 「髪、撫でてくれる? おにいちゃんに撫でられるの大好きなの。 すっごく落ち着くの」 「……ああ。いいよ」 私に乞われるまま、おにいちゃんは、 私の頭を、お気に入りのおっきなリボンごと優しく撫でてくれた。 「……ふふっ。おにいちゃんにこうしてもらうの、結構久しぶりだよね」 「そう言われてみるとそうかもな……」 「覚えてる? 小さいころよく私が家出してさ、いつもおにいちゃんが迎えにきて、 泣いてる私の頭撫でながら慰めてくれてたの」 「覚えてるよ。お前、ことあるごとに家を飛び出してたよなあ…… なにがそんなに不満だったんだ?」 「……なにが不満だったんだろね?」 私とおにいちゃんは、顔を見合わせて少しだけ笑いあった。 ようやく、張り詰めた空気が弛緩したようだった。 「……ねえ、おにいちゃん」 「ん?」 「……………もうすぐ終わっちゃうんだよね、世界」 「…………………」 おにいちゃんの手の動きがピタリと止まった。 長い沈黙のあと、結局はポツリと呟く。 「……ああ」 「だよね」 それはもはや、世界中の誰にでもわかりきっていること。 おにいちゃんも、今更否定しても仕方がないと思ったようだ。 (世界が終わってしまう前に、か……) 「なんで急にそんなこと言うんだよ?」 私はその質問には答えなかった。 その代わりに、ありったけの勇気を振り絞って ずっと言いたかったけど言えなかった質問を口にする。 「……おにいちゃん、私のこと、好き?」 「……また唐突だな」 「答えて」 「……好きに決まってるじゃないか。 お前はいつだって、一番大切な僕の妹さ」 「違う、そうじゃないの」 「そうじゃない、って……」 怪訝そうな顔をするおにいちゃん。 でも私にはわかってる。この怪訝そうな顔は、それほど真実を示していない。 「……本当はわかってるよね? 私の言ってる意味。 妹としてじゃなくて……女として、好き?」 「な、なに馬鹿なことを……」 「………私は好きだよ。おにいちゃんのこと。 もちろん、おにいちゃんとしてもだけど……それ以上に、一人の男の人として」 狼狽するおにいちゃんの目を、私はまっすぐ見つめる。 そうだ。もう、残された時間はほとんどない。 今言わないで、いつ言うんだ。 ぶつけよう。私の本当の気持ち、本当の心を。 「おにいちゃん……好き。愛してるの。」 「……僕たちは……兄妹なんだよ……」 「わかってる……! そんなの、ずっと昔からわかってるよ! だからでしょ? だからおにいちゃんも家を出て行ったんでしょ?」 「え……?」 おにいちゃんの目が、驚愕に開かれる。 「私のこと、妹として見れなくて、 でもやっぱり兄妹だからどうしようもなくて、それでハントマンになって家を出ていった。 違う?」 「………………………」 「否定しないの?」 「……………僕は……」 「…………わかるの。私も一緒だったから。 同じ目でおにいちゃんのことずっと見てた。 毎日、毎日、胸が張り裂けそうだった。 だからおにいちゃんが旅に出るんだってきいたとき、 これでやっと、ただの妹に戻れると思った」 「………ああ……そんな……」 「でもね、駄目だったよ。 不思議だよね。隣にいないと、余計に気づかされちゃうの。 どれだけおにいちゃんのこと、愛してたのかって……思い知らされちゃった」 「……………」 「おにいちゃんが帰ってきてくれたとき、ほんとに嬉しかったよ。 ……それでもやっぱり、言っちゃだめだと思った。 血が繋がってるんだもん、兄妹だもん。そう、自分に必死で言い聞かせて。 …………でも、さっきやっと決意したんだ。 どうせ世界が終わっちゃうのなら……私はもう、ためらわない。 兄妹としてじゃなく………男と女としておにいちゃんと最後の時間を過ごしたいの」 「………………………………………僕、は……」 「……もういっかい言うね。 好きです。……愛してます。 最後に私のこと…………一人の女として、愛してくれませんか?」 「………………………」 おにいちゃんは、すぐにはなにも言葉を返してくれなかった。 唇をきゅっと硬く結び、苦悶の表情を浮かべている。 私も、催促の言葉などかけず、その瞳だけを見つめ続ける。 伝えたいことは全部伝えた。 あとはただ待とう。おにいちゃんが答えを出してくれるのを。 「………………………… …………………………………… ……………………………………………… ああ、わかったよ、言うよ! 僕は……いや、僕もお前のこと、愛してるよッ!」 「……………おにい……ちゃん」 「そうだよ、何もかもその通りだよ! 怖かった……いつか襲い掛かってしまいそうなぐらい…… それぐらい愛してた……! だから、家を出たんだ……! なにもかも……お前と一緒だよ………!」 「……ああ………」 人は、喜びのあまり言葉がでなくなることもあるのだと、その時私は初めて知った。 「お前になにもかも言わせちゃって、駄目な兄、いや、駄目な男だよな…… 遅くなったけど……僕にももう一度言わせて欲しい……愛してる……」 「うん…………私も…! 好き! 世界で一番愛してるの!」 もう、私たちの間に壁になるものはなにもなかった。 背骨が砕けそうなほどに強く抱き締められた。 無我夢中で口付けを交わし、互いの舌を、唾液を交換する。 おにいちゃんの舌は凄く柔らかくて、暖かくて、やっぱり優しかった。 「ねえ……ほら、触ってみて」 長いキスを終えたあと、私はおにいちゃんの手をとって、 自分の胸へとあてがった。 「私、こんなにドキドキしてるんだよ。わかる?」 「ああ、わかるよ。凄い早さでとくとくいってる」 「なんだか、まだ夢を見てるみたい……」 「……夢なんかじゃないさ」 私の鼓動を確かめるためだけに胸に触れていたおにいちゃんの手の動きに、 今度ははっきりとした意思が宿る。 「あっ……やん………」 手のひらで胸全体を撫でさすられたあとは、先端をそっと摘まれ、刺激を与えられる。 やがては、胸だけでなく、おへそのあたりにも、その下の方にも―― 触れるか触れないかぐらいのところで撫ぜられるだけでも、いちいち体がビクンと小さく刎ねてしまう。 私は今、おにいちゃんに愛されてる。 そう思うだけで、体の奥底から熱くて鋭い何かがこみ上げてくる。 おにいちゃんはそれからも、たっぷりと時間をかけながら、 私の衣服をすべて脱がせ、丹念に私の全身を愛撫してくれた。 このままだと、一人だけで恥ずかしい姿を晒してしまいそうだった。 「おにいちゃん……今度は私にもやらせて」 私は、おにいちゃんを制すると、私と同じように服を脱いでもらった。 「わ……凄い……」 最後の布切れの奥から勢いよく飛び出したそれを見た私は、 端から見ると、きっと滑稽なほどに目を丸くしていだろう。 「昔は全然こんなじゃなかったのに……」 「昔って何年前だよ」 「10年ぐらい前、かな……」 今、私の前にあるそれは、幼き日の記憶の中にあったものとは 形状も大きさも、あまりにかけはなれていた。 硬くて太くて、先端は奇妙な形に膨らんでいる。、 「男の人っのて、こんなになるんだね。 ………触っても、いい?」 「うん。あらたまって言われると照れるけど……」 私はおずおずと手を伸ばして、その部位に触れた。 それは、見た目通り――というよりも見た目以上に硬く、がっちりとしていた。 手のひらを通して、ドクンドクンという震えが伝わってくる。 「わあ、すっごく硬い…… 熱くて、ごつごつしてて、それになんだか……脈うってる」 「い、いちいち言わなくていいよ……恥ずかしいじゃないか」 「それにしても、変な形……」 間近でまじまじと見つめる。 初めはグロテスクに見えていたそれだったが、 よく見るとなんとなく愛嬌があって可愛い――ような気もする。 ほんの少しだけ躊躇したが、私はそれに口付けをした。 蒸れた汗のような匂いが鼻をくすぐる。 「お、お前……どこでそんなことを覚えたんだ……!」 素っ頓狂な声をあげるおにいちゃん。 「こうしたら男の人って喜んでくれるんだよね? 友達がよくそんな話してたから知ってるよ」 「マジかよ……まったく、最近の若いやつらときたら」 「……いくつも年なんて離れてないくせに。 でも変な誤解しないでね……こんなこと実際にするのは初めてだよ」 「そんなのわかってるさ。でも、そんなことしなくていいよ、 最近ほら、清潔とかとは程遠い毎日おくってたし……汚いよ」 「ううん、汚くなんてないよ。 ……おにいちゃんの味がする」 「…………バカだな、お前」 「バカでいいもん……んっ…ちゅぱ…」 「……………くぅっ……」 どこをどうすればいいのかもわからず、ただただ無我夢中で舌を這わせただけだったけど、 おにいちゃんは気持ち良さそうな声を幾度もあげてくれたのが心底嬉しかった。 (あ……なんか先っちょの方から……染み出てきた) すっぱいような苦いような、不思議な味がするこの液体は、 おにいちゃんがちゃんと気持ちよくなってくれている証なんだろうか。 「……なあ」 「………なあに?」 おにいちゃんが、私の顔を自身から引き離して言った。 「もう、これ以上我慢できないよ。……お前が、欲しい」 「………うん。私も、おにいちゃんの……欲しい」 そして、おにいちゃんは、私を仰向けに横たわらせると、 自らの先端を私の入り口へとあてがった。 自分でも恥ずかしくなってしまうぐらいにそこは潤っていて、 既におにいちゃんを受け入れる準備は出来ていた。 「いい? いくよ」 「うん。来て……」 私の返事を受けて、おにいちゃんは少しずつ私の中へと体を進めた。 「…………あぁぁっ!!」 先端がほんの少し入っただけで思わず、悲鳴をあげてしまった。 ――痛いなんてものじゃなかった。 例えるならば、体が引き裂かれているかのような、そんな痛みが下半身に響いている。 「大丈夫か? そんなに辛いんだったら、無理しなくても……」 「続けて………… おにいちゃんのだから……大丈夫」 「……わかった」 確かに痛かった。 だけど、決して辛くはなかった。 私はずっと、この瞬間を夢見ていたのだから。 おにいちゃんが、ゆっくりと私の中へと入ってくる。 痛みは私の奥底で、少しずつ別の感覚に摩り替わっていく。 ついに―― ついに私は、幼き日からずっと愛していたおにいちゃんとひとつになれたのだ。 「ずっと……ずっと一緒にいてね……おにいちゃん……」 「ああ……もう、絶対にはなさない……」 私はいつしか、とめどなくこみ上げる歓喜に両頬を濡らしていた。 うすぼんやりとした視界の中におにいちゃんの姿だけが映り、やがて――他の何も見えなくなった。 そして――嵐のように情熱的だった時間は過ぎ去った。 今は、そよ風のように柔らかい時間だけがゆったりと流れている。 おにいちゃんは、ずっと私の頭を優しく撫でてくれている。 私は、その温かい胸の中に抱かれたまま、ベッドの脇の窓に手を伸ばし、 少しだけカーテンを開いて、外に目を向けた。 花、花、花、花、花、花、花、花、花、 花、花、花、花、花、花、花、花、花、 花、花、花、花、花、花、花、花、花、 花、花、花、花、花、花、花、花、花、 花、花、花、花、花、花、花、花、花、 花、花、花、花、花、花、花、花、花 花、花、花、花、花、花、花、花、花、 花、花、花、花、花、花、花、花、花 花、花、花、花、花、花、花、花、花。 気のせいじゃない。フロワロは、確実に増殖している。 破滅の足音は、一秒たりとも待ってくれない。 たぶん、私たちに残された時間はもうほとんどないのだろう。 最期の時が訪れるのは一週間後? 明日? それとも、一分後? ――それでも、構わない。もう、怖くない。 最後にあと10秒―― もう一言だけ伝えることが出来れば、それで十分だ。 最愛の人の耳元でその言葉を囁く。 「おにいちゃん……私、おにいちゃんの側にいれて本当に幸せだったよ」 おにいちゃんは、何も言わずに、ただ私の手をとり、ギュッと力を込めてきた。 私もまた、その手を強く、強く握り返した。 (了)
https://w.atwiki.jp/7d2020/pages/15.html
各種媒体の公式情報のほか、公開されている動画などから読みとれる情報各種 ※製品版では変更されている可能性があります 出演声優一覧 (五十音順 敬称略) 阿部敦 石田彰 江川央生 岡本信彦 小野大輔 神谷浩史 黒田嵩矢 櫻井孝宏 下野紘 杉田智和 竹内良太 中井和哉 中村悠一 福山潤 三木眞一郎 加藤英美里 桑島法子 佐藤利奈 沢城みゆき 竹達彩奈 田中理恵 田村ゆかり 茅原実里 豊口めぐみ 豊崎愛生 日笠陽子 堀江由衣 水樹奈々 悠木碧 ゆかな (以上30名) サンプルネーム一覧(命名者:新納一哉?) ステューデント サムライ ♂ キリマル ♀ カタナコ パワフル デストロイヤー ♂ ダイナモ ♀ サンボちゃん エージェント トリックスター ♂ にくじゃが ♀ モモコ オタク ハッカー ♂ レッド ♀ チェルシー アングラ サイキック ♂ ベイン ♀ ピンクハーレイ 戦闘 ●Rボタンでオートバトル、△ボタンで敵情報 ●バトルコマンド ATTACK、GUARD、SKILL、ITEM、EXHAUST、ESCAPEの六つ EXHAUSTはターンを消費しない模様 職業 ●サムライ、サイキッカー、デストロイヤー、ハッカー、トリックスターの五種 レベル30以上になると他の職業に転職が可能 転職後はレベルが低下する(動画では30→15) ●動画で確認されている各職業のスキル サムライ スキル名 消費マナ 備考 袈裟斬り 3 旋風巻き 2 複数攻撃 金翅鳥王旋風 4 [抜刀] 敵全体に大ダメージを与える 力閂オロシ 5 トンボ斬り 4 [抜刀] 敵単体に中ダメージ+空中の敵に有効 影無し 2 収刀の紡ぎ 1 [抜刀] 敵単体に攻撃後、居合状態にスイッチする 刃下のリアクト 2 練気手当 2 自分のLFを回復する+最速行動 赤火の呼気 2 ターン経過で攻撃アップ? 黒鋼の吸気 2 丹田法の訓 5 乱れ散々桜 15 [EX専用奥義] 敵単体に超絶大ダメージを与える サイキック スキル名 消費マナ 備考 フレイム 4 イフリートベーン 13 ヒートボディ 2 フリーズ 4 敵単体の氷属性の魔法ダメージを与える アイシクルエデン 9 氷属性の魔法大ダメージ 単体と全体を選択できる ゼロ℃ボディ 2 3ターンの間、味方単体に氷鎧を与え、触れた敵に反撃する エレキ 6 敵単体に雷属性の魔法ダメージを与える ボルトアヴェンジ 15 雷属性の魔法大ダメージ 単体と全体を選択できる プラズマジェイル 4 敵単体に雷魔法ダメージ+飛行の敵に有効 デコイミラー 2 自分の身代わりになる幻盾を作り出す マイクロバースト 9 敵単体に魔法ダメージ+出血効果 マナフローター 0 使用ターンの間、他の味方の消費MANAを0にする+最速行動 コンセントレート 12 次の魔法ダメージの威力を2倍以上に高める キュア 3 味方単体のLIFEを回復する リカヴァ 1 味方単体の麻痺 火傷 毒 盲目を回復 リザレクション 3 味方単体を蘇生する デッドマンズリアクト 0 5ターンの間、味方が戦闘不能になると再行動が可能になる 黒のインヴェイジョン 30 [EX専用奥義] 敵単体に魔法大ダメージ+全能力を下げる デストロイヤー スキル名 消費マナ 備考 正拳突き ? ジャブ 2 敵単体に小ダメージ+D深度を必ず1段階付着 ダブルフック 6 [D深度2] 敵単体にダメージ+攻撃力をダウンさせる スピネイジブロウ 6 [D深度2] 敵単体にダメージ+防御力をダウンさせる 鶴瓶マッハ 4 敵単体に中ダメージ+D深度を必ず2段階付着 クインテッタ 8 [D深度3] 敵単体に特大ダメージ ドリルクロウラー 12 [D深度3] 敵単体に特大ダメージ+LIFEとMANAを回復 迎撃スタンス 1 最速で身構え、攻撃してきた敵に中ダメージカウンター 迎撃スタンス・重式 3 最速で身構え、攻撃してきた敵に大ダメージカウンター 牙折る也 0 牙攻撃を無効化して反撃、無効化失敗でもダメージ軽減 爪砕く也 0 爪攻撃を無効化して反撃、無効化失敗でもダメージ軽減 吹裂く也 0 ブレス攻撃を無効化して反撃、無効化失敗でもダメージ軽減 凶転ず也 0 状態異常のみ一定確率で無効化して反撃する 怒りの重爆 16 敵単体にダメージ、使用者のLIFEが低いほど大ダメージ デストロイリアクト 0 4ターンの間、D深度付着のたび低確率で再行動可能 瀕死のド根性 0 LIFE0以下になる攻撃を受けても生き残る パリングシールド 2 使用ターン味方全体のダメージ軽減 スカイハイメテオ 24 Ex 敵全体に超絶大ダメージ+D深度最大効果 ハッカー スキル名 消費マナ 備考 ハッキングゼム ? アタックゲイン ? 味方全員の攻撃力を増加させる マッドストライフ.x 4 使用ターンの間、ハッキング状態の敵を操り同士討ちさせる スケイプゴート.x 4 ロストパワー.x 8 ハッキング状態の敵に攻撃+3ターンの間、攻撃・防御を下げる パッドインパリッド 12 状態異常に対する耐性を低下させる スリープオール 15 カースオール 2 ハッキングリアクト 0 禁断の秘技 30 [EX専用奥義] 2ターンの間、味方全員を無敵状態にする トリックスター スキル名 消費マナ 備考 エイミングショット 6 ラッシュショット 15 敵単体に4回攻撃する+CRT効果 ダンシングショット 7 ジャンプショット 12 タランテラ 2 敵単体にダメージ+麻痺効果 スコルピオ 2 敵単体にダメージ+毒効果 ヴァンパイア 5 フルムーンヴァンプ 12 ヴァンパイアの強化版、対象が出血で味方全体回復+CRT効果 ベノムアンプリフ 12 ハイディング 0 ブッシュトラップ 2 アサシンアイズ 2 アサシンズリアクト 3 エスケイプスタンス 0 トリックハンド 2 5ターンの間、味方全員が使う回復アイテムの効果を上げる サクリファイス 0 自らの命と引き換えに敵にダメージ+味方を全回復する 狂咲きバッドヘヴン 30 [EX専用奥義] 敵単体に大ダメージ+複数の状態異常効果 都庁改修 フロアは1階~15階、13階以上は南北2フロアに分かれる 各施設には改修可能となる条件(キートリガー)と、改修時に入手できる報酬がある模様 動画で確認されているフロアと施設 フロア 施設名 解説 報酬 キートリガー 備考 1F 2F 医務室 本格的な治療が行える医療施設 デッドカット(アクセサリー) 医療物資の入手 3F 自衛隊駐屯室 自衛隊が待機するフロア 麻痺カット(アクセサリー) 自衛隊の協力 4F ムラクモ本部 ムラクモ部隊の指令室兼事務室 職業スキルの追加 LV1を改修済 動画に映っているのはLV2 5F 研究室 ムラクモ機関の研究室 エンカウントゲージの追加 人出を集める 6F 7F 8F 居住フロアA 一般人の居住フロア:A層 ステルスLV1(サポートスキル) - 9F 居住フロアB 一般人の居住フロア:B層 キラーズアトラクト(サポートスキル) フロアA改修済 10F 居住フロアC 一般人の居住フロア:C層 ステルスLV2(サポートスキル) フロアB改修済 11F 居住フロアD 一般人の居住フロア:D層 ステルスLV3(サポートスキル) フロアC改修済 12F 南13F 工業開発室LV1 開発班管轄の作業室 ファクトリーに新商品が追加される - 南13F 工業開発室LV2 開発班管轄の作業室 ファクトリーに新商品が追加される LV1を改修済 南13F 工業開発室LV3 開発班管轄の作業室 ファクトリーに新商品が追加される LV2を改修済 南13F 工業開発室LV4 開発班管轄の作業室 ファクトリーに新商品が追加される LV3を改修済 南14F 南15F 発電室 都庁の自家発電を拡張する施設 ファイアガード(アクセサリ) 北13F 大浴場 英気を養うための風呂 キャンプ(サポートスキル) - 北14F スカイラウンジ 都内を一望できる展望台 EXブースター(サポートスキル) - 動画に映っているのはLV1 北15F DIVAルーム うたひめ の へや DIVAモードの開放(オプション) LV1を改修済
https://w.atwiki.jp/nanadorakari/pages/63.html
異種姦、異種妊娠注意。 無限に広がる大海原…… 水平線の向こうに一体何が待つのか。 ハントマンならずとも、冒険心をくすぐられる光景を前に、 ギルド「セブンセンシズ」のメンバー四人は、 「どうしようか」 途方にくれていた。 「回復薬も無し、マナは尽き、体力も残りわずか…… ああ、一体どうしてこんな事に」 天を仰いで、両手をさしあげるように広げた姿勢が一枚の絵画のように絵になっている。 それもそのはず、彼女はミロスのとある高級官僚の一人娘でありながらハントマンとなった変り種だった。 後ろにたらした金のツインテールに真紅のドレスが、海の蒼に映える。 前から見れば露出の高い胸の辺りが、背をそらしたことによって大事な部分が見えそうで 見えない位置まではみ出しており、男性ならば前かがみならずには居られない光景だったが、 この場に男性は居ない。 彼女の父親が、ハントマンになるに当たって許可を出した理由の一つがそれだった。 「やっぱりマレアイアに行くなんて無茶だったんですよ……」 その後ろでは同じく金髪にツインテールの騎士が、膝を抱えて座り込んでいる。 海上での戦闘で前衛を勤める彼女は、あちこちに生傷を作り、髪も塩で固まっていた。 「だから嫌だっていったのよ! こんなところで死ぬなんて、間抜けすぎるわよ!」 腕を組んで立ち、そっぽを向いているのは青いポニーテールが印象的な娘だった。 背にかけられた矢立にもほとんど矢が残っていない。 「いやー、こりゃ参ったね」 最後の一人は獣人ルシェの少女。普段は柔らかそうな桃色の髪に大きな耳も、今はごわごわだった。 一見して人懐こそうな顔立ちは、苦笑している時もその印象を崩さない。 ただ、その顔に海水と一緒に血や、魔物の返り血が付いているのが今の窮状を表していた。 腰の後ろに佩いた大剣、フランベルジュこそが、強敵ひしめく紺碧の大海原にあって、この一行の生命線と言えた。 「どうするんですか、これから……」 騎士が半分涙目になりながら、誰にともなくつぶやく。 「んー。まだマレアイアまでは結構な距離が有るし、こりゃ引き返すしかないかな」 応えたのはルシェの少女。どうやらまとめ役は彼女らしい。 「はあ……プリンセス発祥の地、一度は見てみたいものですが……仕方がありませんね」 天を仰いでいた真紅の姫君も、振り返って話の輪に入る。 「次はちゃんと準備してから動きましょうよ」 溜息をつきながら立ち上がった騎士が、ふと見ると……ローグの少女は残り少ない矢をつがえ、 海に向かって構えていた。 「来たわよ! 数2!」 そしてまた、死闘が始まった。 それから、何度か魔物に襲われたものの、運良く一人の死者も出さずに 南海を抜ける事が出来たのは奇蹟と言えるだろう。 「いやあ、どうにかなるもんだね」 「日頃の行い、というものですか」 「ああ……陸が見えてきました……!」 「やれやれ……一時はどうなるかと思ったわよ」 皆が一様に安堵して、気を緩めるのもしょうがないといえるだろう。それほどに過酷な旅路だった。 そして、それがいけなかった。 しゅ、という空気を裂く音にルシェの少女が反応しかけた瞬間、その首筋に触手の影が伸びる。 (しまっ……) た、という言葉すらも発する事ができない、これこそは内海名物触手の痺れ毒。 フランベルジュを得て、真っ先に狩って狩って駆りつくした魔物だった。 なんとか動く眼球で周りを探ると、四匹のローパーがそれぞれ一人ずつに襲い掛かり、 あっという間にしびれ毒が全員に回ってゆく。 (こんな、ことが……) ありうるのだろうか。四匹の触手が狙い済ましたかのように四人全員にしびれ毒を注入するなんて。 だがそんなことを考えている場合ではない。一刻も早く剣を構え、ローパーを切り捨てなければ、 四人全員がお陀仏だ。 しびれ、感覚のない腕でフランベルジュを抜こうとする腕に、そうはさせまいとローパーの腕が絡みつく。 厚手の布地を貫いて、わきの下に毒針が差し込まれた。動脈に乗ってあっという間に毒が回り、握力がなくなる。 もはや立っている事すらも困難になり、膝をついてうつぶせに倒れこんでしまう。 (みんな、を……助けなきゃ……) 思う心はしかし、体から乖離してしまったかのようにおぼろげに散じてしまう。毒の量が多いのか、意識が定まらない。 ローパーはさらに首筋や脚に触手を伸ばし、少女を絡めとろうとした。 (死ぬ、の……ここで……) 恐怖心すら沸いてこない事がいいことなのかわるいことなのか……それすらも分からない。 これから自分はローパーに首といわず脚といわず、巻きつかれて全身の骨を砕かれながら食べられてしまうのだろう。 だが、意外にも全身に這った触手の感触は優しく、骨を折るどころか撫でる位の力しか出してはいない。 それに、自分が動かす時には感覚がないのに、触手の感触ははっきりと伝わってくる…… どうやら、唯一肌の見える首から、服の下へ入り込もうとしているようだ。だが、戦士がそんなに簡単に 肌を見せられるはずはない。色っぽい理由があるわけではなく、素肌に攻撃があたるととんでもなく痛いためだ。 動きづらそうにしながらも、ついに先端の毒針を引っ掛けて首元の服を持ち上げるという技までも使って服の中に進入してきた。 意外にもローパーの触手はぬるぬるとしていながらも滑らかな感触で、戦闘で火照った肌にはそのひんやりとした感触が心地よい。 一本が入るとそこにねじ込むようにして、二本目と三本目も入り込んできた。そして、 最初の一本はそのまま下腹部へ、そして残りは胸の膨らみに巻きつくようにしてとぐろを巻き始めた。 「はぁ……ん」 普段の彼女を知るものなら目を疑うほどに、「女」の仕草だった。 とろんと半開きになった目、そして口。胸に巻きつかれ、ぐにぐにと刺激されるだけで既に頬は紅潮し、 全身から力が抜けてしまっている。今の彼女は恐怖から解放され、初めての性感にうっとりと身をゆだねていた。 ズボンとショーツという障害を越えて、ついに秘所にたどり着いた触手が、波打つように秘裂の表面をなぶる。 触手の表面のぬめりに、すぐに少女自身のぬめりが交じり合い、くちゅくちゅと淫らな音を立てる。 ルシェの鋭い聴覚は、仲間の声ではなく自分の体が立てる淫らな音だけを拾い上げている。 「あっ、んあぁっ!」 クリトリスが弾かれ、ひときわ大きな嬌声を上げた。全身にしびれるような快感の波を感じ、 それと同時に強烈な疼きがじわじわと下腹部と胸と中心に後から後からわきあがってくる。 服の中でうごめく触手の動きが、むしろもどかしくなってきた。 (服……脱がないと……) いつの間にか動くようになっていた両の腕を使って、ごそごそと金具を外し、鎧から脱ぎ捨てていく。 全部の金具を外した時点で、触手がうやうやしく鎧を持ち上げ、甲板にそっと下ろした。 後は簡単なもので、上着もズボンのベルトもするするとはずれ、あっという間に胸から下、膝から上が裸になった。 脚甲とガントレットは外すのももどかしいのでそのままだ。 触手の胴体部分に尻を乗せて、全身にくまなく触手が這ってゆく。内腿や腹、背筋に耳の穴の入り口付近など、 これまで想像もしていなかったような自分の性感帯を次々に暴かれて、ルシェの少女は耳にふさわしい、 盛りのついた獣のように鳴き声を上げながら、髪の桃色よりなお紅いその舌を、てらてらと唾液に輝かせ 口の外にだらしなく出していた。まるで舌なめずりをするように、触手を期待の眼差しでみつめながら…… そしてまた一筋、未だぴったりと閉じたままの性器から、尻の穴を伝って触手に愛液が滴る。 というような光景を尻目に、ローグの少女はその青い髪を振り乱しながら、束ねられた触手にヴァギナを貫かれていた。 その口には一本の触手が突っ込まれており、かなり太く広がっている。少女が荒い息をするたびに蠕動を繰り返すそれは、 麻痺毒で広がった気道を完全にふさぎ、ローパーの体内で生成された別の毒と空気を混ぜた気体を容赦なく少女の肺へ送り込む。 その結果として、両手を前に突き出した形で縛り上げられ、口をふさがれ、立ったまま触手の束に貫かれながらも 自ら腰を振り、足元に愛液の泉を作る少女、という構図が出来上がる。 普段からへその下までしかないズボンが足首まで下ろしてあり、完全には脚を広げる事が出来ず、がに股になって 腰を振るその様が、余計に淫靡な雰囲気をかもし出していた。 と、突然束ねられた触手が一気に引き抜かれ、その衝撃に思い切りのけぞり、白目をむきながら失禁する。 大きく開いたままの膣からぼたぼたと愛液が零れ、痙攣を繰り返す口からずるりと触手が引き抜かれる。 新鮮な空気を求めて肩を上下させ、もはや完全に露出した乳房もふるふると揺れていた。限界まで硬く勃起した乳首は、 触手の毒針に弄ばれて紅く充血していた。 脱力した身体を持ち上げられ、やはりローパーの胴体の上に乗せられる。だが先ほどの剣士の少女の時と違い、 その動きは荒々しく、胴体の一番上の部分も活発にうごめいている。 そして…… 「がっ、ぎ、ぃいいいっ!?」 先ほどの触手の束によって、抜いた後でも子宮口が覗けるほどに開いていた膣口が、さらにこじ開けられていく。 ローパーの上部から現れたそれは、まさに生殖器だった。今までの触手など、まさに指先での愛撫に過ぎない。 少女自身の拳よりもさらに一回りは太い『男根』は、すさまじい衝撃を与えつつも、栓の壊れたように垂れ流される 愛液のすべりによって順調に奥へ奥へと飲み込まれてゆく。さらに幹の周りには細く短い触手がまばらに生えており、 自ら這うようにして少女の膣内へと侵入した。 途中からはもはや慣れてしまったのか、ローグの少女も力を緩め、自ら膣を開いて自身の一番奥へ生殖器を誘う。 ローパーに完全に腰掛ける体勢になると、にちゃりと粘液の音がした。 まだ縛られたままの腕を気にする素振りもなく、子供の木馬遊びのようにローパーごと前後に揺らす動きで、 極太の生殖器を貪欲にしゃぶりつくさんと膣を締め上げる。 前に後ろに、自分にかかった体重がほぼ生殖器と膣によって支えられる度絶頂し、得られる快感も深まってゆく。 むずがるように胸を気にすると、たちまち大きな胸の根元を絞り上げるように触手が締め付け、先端に向かって揉み解してゆく。 さらに乳首にまっすぐ毒針をつきたてると、ずぶりと深くまで沈めた。胸の内側に液体を注ぎ込むと、つぷ、と しずかに引き抜く。血は一滴も垂れておらず、乳首にあいていたはずの穴も綺麗にふさがっていた。 すぐさま少女は、両の乳房が燃え上がってしまうのではないかと思うほどの熱さを感じる。 「あつっ、ん、ああああっ! いいッ! イクッ! イクぅーーッ!」 その熱さが半ば酩酊状態だった意識を覚醒させ、快感をも明確にさせた。 触手も限界が近いのか、その巨根を限界まで膨らませ、少女の膣内を余すことなく蹂躙している。 熱を持った胸に絡みついた触手は胸全体をもみほぐすように動き、少女を快感の渦へ叩き落す。 青い髪を振り乱しながら、もはや首が据わっていないうつろな表情で、それでも腰はローパーの動きに合わせて しごき上げるように淫らに動く。その様は長年連れ添った夫婦の営みのように息が合っていて、 少女はいまや触手と一心同体とすらいえた。 先ほどの覚醒の反動か、快楽を貪る事に集中して、もはや人らしいあえぎ声もない。あ゛ーー、と言うような 音が形のいい唇から漏れるばかりだった。 生殖器が限界まで膨らみ射精の前兆を見せるのにあわせて、無意識に子宮口に先端を擦り付けるように深く腰を落とし、 円を描くような腰の振りに変える。 応えるように触手も胸を揉む動きから根元を搾り出す動きに変えた。 (あ……来る……) 射精を待つ心にも、もはや期待感しかない。じわり、と胸に滲み出してくるさらなる快感の予感も、 たぶん同時に来るだろうことも予測できた。 腰を振ることも止めて、ぴったりと子宮口に押し当て、膣の締め付けの緩急だけで『味わう』ことに専念する。 ぎゅむ、と一気に縮んだローパーが、同じ速度で戻ると…… 脳髄まで貫くような衝撃と共に、精液がほとばしる。水のようにさらさらのそれは、性器の太さと量の多さをもって、 水圧によって子宮の中へと進入してゆく。その脈動、子宮にたまってゆく重み、そして、 ぷしゅああ、と音さえ聞こえそうな勢いをもって白濁した母乳が噴出する感覚。 全てが少女を、人の身には余るほどの快楽の高みへと押し上げてゆく。 後に「空高く飛んでいて、下には雲も見えた」と語る、絶頂中の絶頂の中…… 少女は天使のように穏やかな微笑を浮かべ、意識を手放した。 崩れ落ちたローグの少女にさらに精液を注ぎ続ける触手と、 剣士の少女をひたすらに焦らして、前も後ろもぷっくりと充血させ、今は母乳を優しく搾りながら戯れている触手、 双方を眺めながら…… 紅き姫君が、露出したローパーの性器を、胸の谷間と口全体でもって熱心にねぶっている。 傍らには、ヴァギナを避け、大股を開かされた格好でアナルをほじられているナイトの姿があった。 「んほぉっ! はひっ! もっと! もっとケツ穴ほじってくださいぃ!」 先ほど落ち込んでいた時とは別人かと思うほど表情は弛みきって、淫売そのものといった言葉で 触手相手に懇願している。 「うふふ……あなたは本当に可愛いわね。そんなに触手にしてもらうのが気持ちいい?」 「はひぃ! ぎもぢいいれすぅ! またイクッ! イクううううう!!」 絶頂と同時に小便を垂れ流し、愛液の水溜りと交じり合う。ナイトの少女のほうは、まだまだ収まらない 触手の責めに、先ほどと同じく腰を振ってかいがいしく応える。 ツインテールが鎧を叩くのもかまわず、一心不乱に触手をアナルでしごき上げる少女は、 外見的には全く肌を露出しては居ない。 ただ、ズボンの股間の部分がジッパーで開くように改造してあり、 そこから綺麗な尻と性器が惜しげもなく露出されている。 身も心も触手に捧げたように甘い声で叫び続ける彼女を横目に、姫はねっとりと触手のモノに舌を這わせる。 責めの手が弛んだのが不満だったのか、スカートの下から膣にも尻の穴にももぐりこんだ触手たちが、 ドリルのように螺旋を描いて胎の中を余すことなく揉み解してゆく。 その責めにもうっとりと目を細め、艶っぽい溜息をつく位で、かわいらしい催促、というほどにしか認識していない。 「ふふ……分かっていますわ。ただいま……」 ともすれば自身の首ほどもある太さの幹を、すっぽりと巨乳で挟み込み、両手で強く圧力を加える。 さらに思い切り開いた口が、極太のそれを飲み込んだ。両手で挟んだもので肉棒を手前に引き寄せ、 さらに首を突き出して、口内どころか食道まで使ってそれをしごき始めた。 高貴さ、そして清楚さすら感じさせる普段のたたずまいから、大口を開けた雄を喜ばせるための顔へ、 スイッチを切り替えるように変わっている。 根元を胸に、半分から上を口に、激しく愛撫されて、ローパーすらも震え、触手がだらりと力なく垂れ下がる。 だがヴァギナとアナルにくわえ込まれた触手だけは、垂れ下がる事すら許されず、さらに姫の体内での愛撫を受ける。 そして、姫の長い舌がローパーの精子が沸きあがってくるはずの道へねじ込まれると、ローパーがたまらず痙攣し、 一気に射精が導かれた。 噴出するその一瞬前に顔を引き、鈴口に口付けると、とてつもない勢いで吹き上がる精液をうっとりと目を細めて 飲み下してゆく。 びくんびくんという痙攣を、胸の圧力で押さえつけながら、むしろ胸で精液を搾り出すように上下動を止めない。 一分以上も続いた長い射精を、結局一滴も漏らさずにその胃袋に納めてしまう。 「ふう……おいしい。噂に聞いた珍味ローパーの精液、おなか一杯いただきました。 ……出来れば彼女のように、子宮に注いでもらいたかったのですけれど」 ちらりとローグの少女を見やると、妊婦のようにぽっこりと下腹部が膨らんでいる。倒れた少女と触手はまだ結合しており、 ゆるゆるとした後戯を楽しんでいる。表情はボーっとしているものの既に意識は戻っているらしく、触手にいとおしげに 舌を這わせていた。 「まあ、それはこれからたっぷりいただきましょう。……噂どおり、とってもコクがあって美味しくて…… マナもたっぷり回復しましたから」 先ほどまでアゴがはずれているかと思うほどに大口を開いて性器をくわえ込んでいたとは思えない清楚な笑みを浮かべ、 少し指先を喉元に当てて調子を確かめると、 ――皆さん、じっくりと楽しみましょうね 一瞬で場を支配した。ぎしり、とローパー四匹の動きが止まり、人の目にはわからないが恐らく姫に向かって正面に向き直る。 「んぅ……? だぁめ、やめないでぇ……」 剣士の少女は、まるっきり恋人に甘える口調で、股の間に突き出た性器をはさみ、いわゆる素股のようにたどたどしく腰を振る。 ローグの少女は無言のまま口に咥えた触手に舌をねっとりと絡め、抱きしめるように胸の間に挟んだ二本の触手の先端にほお擦りし、 膣の中で強烈な存在感を主張するいちもつをきゅ、きゅ、と締め上げ、触手に『奉仕』していた。 それら二組の『カップル』を、ほほえましげな視線で見やってから、 「あなた方はそのまま、各々で楽しんでいてくださいませ。後でご一緒しましょうね?」 こともなげに言ってのける。 二匹のローパーがまたうごめき始めた。心なしか、その動きに優しいものが混じったように見え、姫は笑みを深くした。 「さて……とっても素敵な協力者もできたことだし、あなたの開発も一気に進みますわね」 まるで世間話をするように気安く、絶頂を繰り返して今はぐったりしている自らの騎士に水を向けた。 後ろに手を回して紐を外しチャックを下ろし、真紅のドレスをぱさりと下に落とすように脱ぎ捨てる。 ここからが本番と言わんばかりに艶然と舌なめずりする、その下半身は、まるで魔物に寄生されたかのように 触手がのたくっている。何本もの触手がより合わさって前後両方の穴にもぐりこみ、触手の粘液ではない液体が ぽたぽたと滴り、より怪しい輝きを放っていた。 その触手が姫の意を汲んだように一度抜け、なんとドレスを摘んで綺麗に折りたたんで脇に片付ける。 「姫様ぁ……こ、これ、凄すぎて……あたし、壊れちゃいま……ふやぁああっ!?」 体力を使い切ったのか、ほんの少し戻った理性の光を、姫の一瞥で動き始めたかのように触手が肉欲で塗りつぶす。 姫はドレスを脱ぎさって、肘まで覆う絹の手袋と、白のレースが美しいガーターベルトのみ。 そんな劣情をかきたてる格好で騎士に歩み寄り、彼女を責める触手を見つめた。 「あなたはこの子のお尻がお気に入りみたいだけれど……もっといろいろなところを試してはいかがかしら?」 その言に引きつる少女は無視して、 「まずは邪魔な鎧を取ってしまわないと……ねえ、これどうやったら外れるの? ローパーさんに説明してあげて?」 尻の穴を陵辱される事に使われていた全神経を、一気に素の状態に戻す発言だった。 「は? いや、その」 「いいから。 手順を説明しなさい」 主従である以上、命令とあらば従うほかない。 「ええと……まずは脇の内側にある留め金を……」 残り二人の嬌声が響く中、大海原の真ん中で、ローパーに鎧の脱がせてもらう、というシュールな光景が繰り広げられる。 意外にもローパーはスムーズに鎧を外し、金のポニーテールをもつ主従はそろってほぼ全裸となった。 「はい、よく出来ました♪ ……前からやってみたかったのよ。 ローパーさん。『この子のお小水が出る穴を気持ちよくしてあげて』」 不思議な響きを持つその声は、プリンセスという戦闘職を知る者なら常識の、『リクエスト』と呼ばれる発声法だ。 しかし、自分自身や仲間同士で攻撃しあう、位にしか使えないはずなのだが……どういうことか、完全に意のままに操っているように見える。 そんな疑問より先に、まず発言の内容が従者たる騎士の少女には引っかかった。 「お、おしょ……!? 姫様、そんな……」 「嫌、なんて言わないわよね? 彼、お上手だもの。きっと気持ちよくしてくれるわ」 姫の言葉に、少女はつばを……いや、よだれを飲み込んだ。未知の快感に対する恐怖と期待……そのどちらもが、 心の内側で『徹底的に犯しつくされたい』という欲求の燃料になっていく。 触手も、「信用しろ」といわんばかりにやんわりと子宮の裏側や尾てい骨のあたり……あっという間に暴かれた、 彼女の性感帯をなで上げ、性欲以外の感情がどろどろと溶けてゆく。 「……はい」 「聞こえないわ。いつもの、ちゃんとしたお願いをしなさい」 きっぱりと断言する間にも、騎士の少女の琥珀色の瞳からは理性の光が消えうせてゆく。 「ローパー様ぁ……、私の尿道も、お尻の穴も、オマンコも、全部全部犯し尽くしてくださいっ!」 雄に媚を売る以外には使いどころが一切無い、甘ったるい声でローパーに懇願する。 まってましたとばかり、ローパーは尿道の付近に毒針を突き刺し、強制的に弛緩させる。 そこへ触手がねじ込まれてゆく。弛緩したとはいえ相当にきついそこは、強い抵抗を持って触手を阻んだ。 「ぎっ……があぁあっ! 無理っ、こんなの無理ですぅ!」 さすがにこの激痛には耐えられないのか、涙を浮かべながら主に……あるいはローパーに懇願する。 「しょうがない子ね……ローパーさん。もう少しお薬を増やしてあげて」 今度は毒針そのものが尿道に挿入され、内部で麻痺毒を出す。さらに弛緩した尿道がずるずると触手を飲み込み、 ついに膀胱にまで達した。 限界まで股を開いた姿勢で尿道に触手を飲み込んでいる少女をうっとりと眺め、 そっと恥丘に手を伸ばした。 「なんでも、クリトリスにつながる神経がすぐ横に通っているそうですけど……」 ふっくらと普段以上に盛り上がっているそこを、横から包むようにぎゅ、と押さえつける。 「――――!!!!」 声にすらならない叫びを上げてのけぞる。痛みなどではない事は、小便のかわりに噴出する愛液の量が教えてくれた。 「まあ、とっても気持ちよさそう。後で私もお願いしようかしら」 冗談でもなんでもなく、自分が尿道を責められているところを想像して、愛液が一筋股間から滴る。 こりこりとクリトリスをいじってやって、 「では、このままじっくりと楽しんでいてください。くれぐれも傷はつけないように、お気をつけて」 ローパーは返答の変わりに、先ほどの姫のように外から尿道の中とクリトリスとを挟むように圧迫して、 少女のまっすぐなポニーテールを激しく波打たせた。 「うふふ。ごゆっくり。さ、私にもお願いしますね……?」 言いながら、自分のパートナーのローパーに歩み寄り、心を通わせるかのようにそっと目を閉じると、 一本の触手が滑らかに膣にもぐりこんだ。そして、一番奥までもぐりこむと、子宮口にその毒針を突きたてる。 自らの一番大事な器官を人外に許す背徳感に、さすがの姫も戦慄にも似た身震いを覚える。ただその戦慄も これからする行為への期待感のスパイスに過ぎなかった。 何点かに分けて麻痺毒を打ち込んだ後、前戯代わり、そして毒を回すために子宮口を優しく揉み解してくれる。 それだけでも絶頂に達してしまいそうな快感を、これからの期待感で押さえ込んだ。 だが、ぐぷり、と肉の輪を通った感触が確かに感じられた時、さすがの姫も軽く絶頂してしまった。 慎重に子宮に進入した触手は、慣らしのために優しく優しく内壁を撫でる。 押さえようの無い神経の反射で姫の全身にぞわぞわと怖気が走り、次の瞬間にはそれを快感として捉えられるようになった。 「あ、はぁ……ひさし、ぶり、ですわ……こんな……っ」 人一倍に性交の楽しみを知っていると自負している姫君だが、かといって別に巨根でなければ達する事は出来ないとかそういうことは無い。 むしろ相手が平均よりずっと小さなものであろうと、きちんと手順を踏んで相手と同時に達する事をたしなみとしているくらいだ。 だが、性感に翻弄される、という経験など、初めての『あの人』以来ついぞ体験した事はなかった。 気絶するほどの絶頂の中にあってさえ、姫としての精神の柱が揺るぐ事はなかった。 それを……人外の、ローパーに子宮の内側を撫でられただけで揺さぶられている。 屈辱、と取るべきか。……いや、当然なのだ、という思いの方が強かった。 「ああ……撫でられるだけで、こんなにも身も心も震えるなんて……とっても素敵……」 自らの身体を浅く抱き、うっとりとそうつぶやく表情には一切の翳りは無い。人であろうが魔物であろうが、 雄と雌のまぐわいに種族の貴賎など無い、と言わんばかりの、すがすがしい、素直に肉欲を求める笑みだった。 姫としてはすぐにでも子宮まで繋がりたかったのだが、これにはローパーが渋った。さらに時間をかけて、 麻痺毒とは別の、崔淫剤とでも言うべき液体を子宮に撒き散らしてゆく。 「そう……体が丈夫になるのですか。私のことを心配してくださるのね? ありがとう……」 心に熱いものを感じ、先ほどまで握っていた、精神のタガを完全に外す事に決めた。 (『あの人』も踏み入る事のなかった女性の聖域を初めて許す殿方……ですものね) 素直に、生娘のように、感じるままに快感に身をゆだねよう。そうしたいと思える。 だんだん大胆に、ヌルヌルと子宮内壁を這う感触に、身を任せる。あっという間に性欲は膨れ上がり、 目の前の巨根から放たれる精で思い切り満たして欲しいという衝動が沸きあがってきた。 「ねえ……お願いします。もう……我慢できませんの……」 それでもその瞳は聡明な光を失わない。それこそがこの姫の本性なのかもしれなかった。 ゆっくりと触手が抜かれ、子宮から出るときにまた軽く絶頂した。これからこの感覚を何百回も味わうのかと思うと 胸の高鳴りを抑え切れない、という風に、胸に手をやる。 ローパーは縦に長く、生殖器は上部についている。そのため、挿入するには姫が自ら股を開いて、 腰を前に突き出すような体勢を取った。後ろから挿入してもらえばこんな体勢でなくてもいいのだが、 これから『愛し合う』男性と、向かい合ったまま繋がりたかった。 棍棒のように太く、ごつごつとしたそれが膣口にあたり、本当の生娘のように、ぴくり、と震えてしまう。 そんな自分がおかしくてかすかに笑いながら、じっくりと味わうように、ゆっくり腰を落としていく。 半ばまで埋まったところで、普段の一番奥に差し掛かった。姫はどんな大きさのものでも収められるよう、 深くなるように自身を『調教』しているが、我慢しきれないほど発情してしまった今、子宮がおりてきているようだった。 ここから、さらに腰を下ろす。 先ほどとは比較にならない太さが子宮口をこじ開け、一瞬意識が飛び、膝が落ちた。 ごりゅ、と体の中の衝撃が音として聞こえ、 「ああああああああっ!!!」 衝撃が声となって迸った。 のけぞって白い喉をさらし、両脚を痙攣させ、絶頂に潮を吹く。 生まれて初めての、性技もなにも無い、本能を揺さぶられるような至上の快楽。 貫かれた瞬間から、子宮に全神経が集中してしまったように、指一本動かす事が出来ない。 触手が四肢に絡みつき、姿勢を固定してくれる。もはや優美な微笑すら浮かべることが出来ない 力の抜けたその顔は、意外にもまだ幼さを感じさせる。代わりに、膣で彼を抱きしめる事で返礼とした。 胴体の収縮と、触手で釣った体の上昇が同時に行われ、やや乱暴に引き抜かれる。 「ぉおんっ!」 仔犬のような、動物じみた嬌声を反射的に上げる姫は、普通なら下品としか思えないようなだらしない表情を 浮かべていても、雌として凄絶な美しさを放っていた。 ローパーのほうも、最上の雌を前にもはや我慢が出来ないのか、子宮から引き抜くとすぐに折り返し、 もう一度子宮口をごりごりと蹂躙しながら進入する。 「あおぉっ!」 理性を完全に飛ばし、本能だけで吠えながらも、プリンセスの艶声はあくまでも美しかった。 いつのまにか全裸になって、ローパーの胴体を抱きしめているルシェの剣士、 精液に胎を膨らませ、羨むように熱い視線を向けるローグの少女、 自らの主が決して見せたことの無かった、本気の乱れ振りを目に焼き付けながら、尿道とクリトリスの責めに断続的に絶頂するナイトの少女、 苦楽を共にした仲間の熱い視線に見守られながら、一匹の雄と雌として、お互いに最高の快楽を与え合っている。 金髪の姫君は、涙も鼻水もよだれも全部流して顔中をぐしゃぐしゃにしながらも、見るものに感銘と…… そして劣情を湧き上がらせる、美しさを備えていた。 それから先のことは、もはや姫の記憶に無い。 激しい快楽の残滓が全身にたゆたっているのを感じるのみだった。 目が覚めて、まず最初にしたことといえば…… 「っ!? 敵は!? 魔物は!?」 狂乱から覚めた各々が、襲撃に対する警戒心を強めることだった。 次に襲われれば全滅もありうる、という状況で、武具をうっちゃってサカっていたのだからまあ当然だろう。 しかし周囲には一切魔物の気配はなく、穏やかに凪いだ海が広がっているだけだ。 「心配要りません。この方たちがここにいる限り、新たな魔物は襲ってはこないそうですよ」 なんだかよく分からないが、魔物の中でそんな取り決めのようなものが出来ているらしい。 まあ本来の生息域を離れれば、ハントマンもローパーも外敵とみなされ、襲われる事になるが。 「この方々の精液でマナも取り戻しましたし、このまま中央海域を使って私たちの家に帰ることにいたしましょう」 「え? ちょっと待ってください、姫様。まさかその……彼ら、を、一緒につれて帰るんですか?」 素っ裸で、股間から『彼ら』の精液を滴らせながらではあるが、さすがに面食らったようにナイトの少女が言う。 「は、はいはい! あたしは……その、賛成かな」 腰が引け気味のその意見に即座に反応したのは、剣士の少女だった。抱き枕のようにローパーの胴体を抱きしめたままである。 「何? そいつに情が移っちゃった?」 からかう様にそう言いながらも、ローグの少女も自分の相手に寄り添うように座っている。 「えへへ……あのね、話し合って、決めたんだ。初めてはあたしの部屋で……って」 余人から見れば、気がふれたとしか思えない発言だったが、ここにいる四人と四匹の間では、 このシュールな内容にもすとんと納得できるような空気があった。 「まあ、初々しい」 「それだけですか……いや、もういいです」 呆れたように嘆息しながらも、振り返って『彼』を見る琥珀色の瞳には、既に肉欲の光が宿っている。 「ふふ。女性ばかりで男っ気が無いと思っていましたが……みんな、思わぬところですばらしいお相手とめぐり合えましたね」 それから。彼女たちの本拠地であるギルドハウスに帰還するまで、一度も襲撃を受けることはなかった。 一人が操舵を担当し、他の三人が交代で肉欲の宴に興じる……暇な時は、操舵をしながらも触手と戯れながら、 のんびりと船旅を続ける。船から嬌声が途絶える事が無いほどだった。 プロレマを横切り、さらに東へ。向こうにアイゼンの国土が広がる断崖絶壁の東大陸海岸線を眺めながら、 四人ともが子宮や胃袋を精液で満たしたりもした。 そして、彼女たちの本拠地……ほとんど知るものの無い、ドーン島が水平線にうっすらと見える、 山岳にシミのように小さく広がる平原、その小さな森の中のギルドハウスにたどり着く。 プロレマの生物学者が聞けば、不謹慎ながらも知的好奇心を押さえきれないだろう。彼女たちは、 ローパーの子供を何度も身篭った。 それは、時に人、時にローパーの形を取って生まれてきたが、そのほとんどは生まれてまもなく死亡した。 彼女たちは大いに悲しんだけれども、肉欲と……そして確かに芽生えていた愛に突き動かされ、何度もまぐわい、 そして子をなした。 剣士の少女は、『夫』への愛ゆえにギルドハウスに居残り、ハントマンを事実上廃業した。一番多く子を孕み、 そして肉体を『ローパーの妻』として愛を交し合った彼女にはしかし、終生丈夫な子宝には恵まれなかった。 過度の出産がたたり、体調を崩して死にいたるまで、その人懐こい笑みを絶やす事はなかった。 「あなたとの赤ちゃんを遺す事が出来なかったのは、残念だけれど……一緒に暮らせて、本当に幸せだったわ」 眠るように息を引き取った彼女と共に、その夫も何処ともなく姿を消した。 この異常な状況に違和感を覚え、離反したのは、意外にもローグの少女だった。 「ここに居たら私、本当にダメになりそうだから……ゴメンね。さよなら」 それから彼女は色々なギルドを渡り歩き、よき先達として活躍する事になる。しかし、 一度覚えてしまった魔性の快楽は忘れる事は出来ず……一番多種多様な『お相手』と経験したのも彼女だった。 ナイトの少女は、初めこそ少々の疑問を覚えていたものの、幸か不幸か、生来の優しい性格が影響して 『夫』との愛をはぐくむに至った。 もはや新たに人を招くのもはばかられるセブンセンシズの最後の二人として、東と西、両方の大陸をまたにかけ活躍した。 一仕事終えて帰ってきた彼女を夫が出迎えるたび、ルシェの少女との浮気を咎められていたという。 そんな彼女も、丈夫な子を産むことはなかった。ただ、ルシェの少女ほど頻繁に妊娠していたわけでもなく、 夫の老衰死を看取ることになる。 最後に、金髪に真紅のドレスの姫君は。 ローパーを夫とすることはなく、しかし『特別な殿方』として子をなす事にも応じた。 『あの人』の影を追い求め、世界中を駆けるも、結ばれる事はなかったらしい。 ローグの少女は多様な種族と交わったが、姫のほうは人間を含めれば相手にした数は一番だった。 ただあくまでも節度を持っていると主張する彼女は、何度かの妊娠の際、全て相手を特定できてはいた。 『あの人』に再開してからは、生まれた子供の教育のためギルドハウスに留まる期間が増えていった。 そんな中で、彼女もローパーとの子供を身篭る回数が増え……ついに、丈夫な子を授かった。姿はローパーだった。 一番子宝を望んでいた剣士の少女、そしてナイトの少女も、わが子のように可愛がり、また(元)ハントマンとして 自らの技をも教え込んだ。 時は流れ……さまざまな出来事を経て、今ではセブンセンシズのギルドハウスの痕跡すらも残っていない。 だが、不用意に訪れたハントマンは戦慄するだろう。ローパーとしては破格の強さを誇る強敵を前に。 その名は……
https://w.atwiki.jp/7d2020-2/pages/55.html
女性H:堀江由衣 ※以下ネタばれを含みます 女性H:堀江由衣 汎用台詞 サムライスキル トリックスタースキル デストロイヤースキル サイキックスキル ハッカースキル アイドルスキル NPC アイテル コメント欄 汎用台詞 上へ キャラクター登録時 「呼んでくれて、ありがとう!」 勝利時 「勝って兜の緒を締めよ。ね?」「飛び出しちゃダメじゃない」「これくらい、何ともないね!」 退却時 「いい判断だね!」 対ドラゴン戦 「百戦も危うからず、だね」「もう、悪さしちゃダメだよ」 対帝竜戦 「一瞬たりとも、気は抜けないね」(新規)「まだ懲りないのかな?」(再戦) イベント勝利時 「無理だってわかった?」(東京地下道 イズミ&アサルト兵×2)「無理だってわかった?」(首都高11号線 イズミ&アサルト兵&投擲兵)「ぶつかって分かる事もあるんだ」(ショウジ&イズミ)「元気なのはわかったよ」(SKY)「本気で怒ってるんだから!」(真竜第一形態)「今度こそ、本当におしまい!」(真竜第二、第三形態)「これで終わりよ!」「はあああ!」(真竜勝利後イベント)「しつこいのは良くないよ?」(幻視竜王)「あなたのこと、尊敬してるよ」(人類戦士)※ここから下は前作限定「こんな事しちゃあ、だーめ!」(首都高)「あなたは何を思ったの…?」(人竜)「さあ帰ろう、みんなのところへ!」(真竜)「その強さには驚いちゃうな」(人類戦士) レベルアップ時 「備えあれば憂いなし、だね!」「毎回こうだといいんだけれど」「日々前進、だね!」 パーティー加入 「うん、いいよ!」 室内 「こんにちは」(CHAP0)「やるせないね…」(CHAP0終わり際)「どうしたの?」(CHAP1)「嫌だね…」(CHAP2)「嬉しいなあ!」(CHAP3)「え、ええ!?」(CHAP4)「無理…なのかな」(CHAP4終わり際)「いい調子ね!」(CHAP5)「絶対、勝とうね!」(決戦前)「感激だよ!」(クリア後)「変わらず、よろしくね!」(クリア後データで再クリア) 料理 「当番だからね」→「しっかり食べて、しっかり働く!」 ラウンジ 「こういうの、初めてだから」「全部…預けてもいいかな」「き、緊張するね」 サムライスキル 上へ 通常攻撃 「はっ!」「やっ!」 エグゾースト 「でぃゃぁぁぁっ!」 旋風巻き 「ひと振りっ!」 金翅鳥王旋風 「大きくいくよ!」 飛天斬り 「受けてみて!」 宵待ちの型 「ちょっと通してね」 力閂オロシ 「出番だね!」→「反省しなさい!」 トンボ斬り 「斬り崩して!」 影無し 「失礼するね」 八双大蛇突き 「でやぁぁぁっ!」→「そこだね!」 収刀の紡ぎ収刀の紡ぎ 転 「此処はこの型!」 崩し払い 「出番だね!」→「まずはこれで!」 モミジ討ち 「出番だね!」→「邪魔するね!」 フブキ討ち 「出番だね!」→「そこ通るよ!」 不動居 「もっと…もっとだよ!」 風林重ね 「ついていくね!」→「これが決まれば!」 十六手詰め 「出番だね!」→「全力で行くね!」 抜刀の紡ぎ 「こっちを試すね!」 抜刀の紡ぎ 転 「出番だね!」→「抜き打ちだよ!」 修羅の貫付け 「油断大敵!」 刃下のリアクト 「乗り越えてみせる」 練気手当 「危なかったね」 赤化の呼気 「力がみなぎる…!」 黒鋼の呼気 「倒れてられないよ!」 丹田法の訓 「一緒に頑張ろう」 憤怒の刃 「ごめんなさいは?」 乱れ散々桜 「けじめをつけよう…」「やっ!」「キミが負けるか、私が勝つかっ!」「でぃゃぁぁぁっ!」「てぇぇぃっ!」「あっ…どっちも一緒かぁ♪」 天地絶ち 「予習復習はしっかりと!」「めええええん!」「ね、簡単でしょ?」 トリックスタースキル 上へ 通常攻撃(短剣) 「しゅっ!」「せいっ!」 通常攻撃(銃) 「たぁっ!」「行くよ!」 エグゾースト 「はぁぁっ!」 タランテラ 「動かないでね!」 スコルピオ 「痛いの行くよ!」 クラーケン 「涙目だね」 ヴァンパイア 「ごっくん!」 フルムーンヴァンプ 「ここだね!」→「ごちそうさま!」 ベノムアンプリフ 「ここだね!」→「苦しいよね?」 ベノムフェティシュ 「終わってないよ!」 ペインイーター 「ここだね!」→「痛いのは一瞬だけ…!」 マインスロアーTNTスロアー 「順番待てるよね?」 ラッシュショット 「ここだね!」→「避けちゃダメェッ!」 エイミングショット 「ここだね!」→「照準良し!」 エア・アサルト 「はぁぁぁぁっ!」→「沢山いくよ!」 ニーブレイク 「あぶなーい!」 ジャンプショット 「はぁぁぁぁっ!」→「降参しなよ!」 ゼロレンジショット 「ガツンと!」「ここだね!」「まだまだ」「いい感じ!」 ハイディング 「奇襲をかけるね」 ブッシュトラップ 「ここだね!」→「突然ゴメンね!」 チーターマン 「効率良くね」 アサシンズリアクト 「集中していこう」 アサシンアイズ 「弱点はそこかな?」 エスケイプスタンス 「早く逃げないと!」 サプライズハント 「先導するね!」 トリックハンド 「難しくないよ」 サクリファイス 「後はしっかりね…」 狂咲きバッドヘヴン 「抜かりないよ」「特製の銃弾なんだから!」「いい感じ!」「どうぞお大事に♪」 磔刑ディアボリカ 「教えてあげる!」「小さくても数では負けない!」「飲み込んで」 デストロイヤースキル 上へ 通常攻撃 「てやあ!」「そこっ!」 エグゾースト 「おぉぉぉっ!」 ジャブ 「思いっきり!」 釣瓶マッハ 「(通常攻撃・ランダム×2回)」→「い・け・ま・せんっ!」 ダブルフック 「今なら!」→「軸がブレたね!」 正拳突き 「おぉぉぉっ!」→「外さない!」 崩伏連脚 「おぉぉぉっ!」→「もう!ダメでしょ?」 ランドクラッシャー 「えいや!」 スピネイジブロウ 「おぉぉぉっ!」→「守りが甘い!」 介錯クリンチ 「おぉぉぉっ!」→「反省してる?」 クインテッタ 「今なら!」→「こら!」 ドリルクロウラー 「今なら!」→「中まで届け!」 ハンマーヘッド 「今なら!」→「でいっ!」 迎撃スタンス 「かかっておいでよ!」→「お見通しだよ!」 オトシ前上等! 「お返しの分!」 牙折る也 「ヤンチャだなあ」→「お見通しだよ!」 爪砕く也 「わたしを倒す?」→「お見通しだよ!」 吹裂く也 「そう来るなら!」→「お見通しだよ!」 凶転ず也 「ここは我慢!」→「お見通しだよ!」 怒りの重爆 「おぉぉぉっ!」→「お説教だよ!」 デストロイリアクト 「もっと…もっと…!」 デストロイチャージ 「覚悟はいいかな!?」 先制デストロイ 「遠慮しないよ!」 瀕死のド根性 「窮鼠は怖いよ!」 パリングシールド 「怯えちゃ駄目!」 スカイハイメテオ 「無茶苦茶だなぁ…」「そーれぇ!」「っっ!」「おぉぉぉっ!」「星を砕く前に、止めてね!」「倒す!」 最終承認Sバンカー 「受取先はここです!」「ありがとー!」「てぇい!」 サイキックスキル 上へ 通常攻撃 「てやぁ!」「はいっ!」 エグゾースト 「ぬぅぅっ!」 フレイム 「烈火の如く!」 イフリートベーン 「ぬぅぅっ!」「逆巻け猛火!」 ヒートボディ 「忠告しとくね!」 フリーズ 「霧氷の如く!」 アイシクルエデン 「ぬぅぅっ!」「荒ぶれ、氷嵐!」 ゼロ℃ボディ 「お好きにどうぞ!」 エレキ 「お仕置きです!」 ボルトアヴェンジ 「ぬぅぅっ!」「暴れちゃダメだよ!」 エアスピアーヴォルテックス 「奔れ!疾風!」 エナジーピラー 「私の番だね!」→「やぁ!」 フロストバーン 「全力をこめて!」 マイクロバースト 「私の番だね!」→「責め苦だよ!」 半径50mの支配者 「おまけの一撃っ!」 キュア 「怪我には注意だよ」 リカヴァ 「私の番だね!」→「じっとしていて」 リザレクション 「私の番だね!」→「もう大丈夫だよ」 プレリザレクション 「私の番だね!」→「お守りだよ」 デコイミラー 「身代わり、頼むよ!」 マナフローター 「節約しないとね!」 コンセントレート 「次までには…」 デッドマンズリアクト 「ぬぅぅっ!」→「勝手はさせないよ」 魔力の湧水 「ちょっと待って」→「ひと息入れよ」 オートリカヴァ 「私の番だね!」→「応急手当だよ」 黒のインヴェイジョン 「己の悪行…」「しっかり悔い改めなさい!」「…やった!」「因果応報ってこと!」 キセキの代行者 「これは…すごいね…」「でも…私が…やらなきゃ…!」「無茶はこれっきりだよ?」 ハッカースキル 上へ 通常攻撃 「えいっ!」「ざんっ!」 エグゾースト 「ふぅぅっ!」 アタックゲイン 「遠慮は要らないよ」 ディフェンスゲイン 「痛いのは…嫌だよね」 リジェネレーター 「無傷が一番だけれど…ね」 119ナノマシン 「ふぅぅ」→「君はガンバリ屋さんだね」 Bデータイレイザー 「ふぅぅ」→「痛いの痛いのとんでいけ!」 ファイアブレイク 「無理なく行こうよ」 アイスブレイク 「無茶はダメだよ」 Aスキルコーラー 「ふぅぅ」→「軽快に行こう」 ハッキングワン 「そこの君!」 ハッキングゼム 「はぁ~い、みなさ~ん」 マッドストライフ.x 「どっちの味方!?」 スケイプゴート.x 「吸い取っちゃうよ」 ロストパワー.x 「もっと抑えて」 バッドインバリッド 「ふぅぅ」→「有利にするよ」 スリープオール 「ふぅぅ」→「しばらく寝ててね」 カースオール 「ふぅぅ」→「怒られたいの?」 ハッキングリアクト 「ふぅぅ」→「なにかやろうか?」 リアクターチアー 「ふぅぅ」→「全力で支援するよ!」 クイックハック 「気を付け!」 サバゲーナレッジ 「ふぅぅ」→「傷を甘く見ちゃダメ」 ファイア:TROY 「そろそろだね!」→「猛火の戒め!」 アイス:TROY 「そろそろだね!」→「雹乱の戒め!」 キュア:TROY 「無理はダメだよ」 エンチャントファイア 「この攻略は炎ね」 エンチャントアイス 「この攻略は氷ね」 ラッキーゲイン 「ずっと素直なキミでいて!」 禁断の秘技 「よぉーし」「たまには楽しまなくっちゃね!」「おみごと!」「これからが本番だよ」 天罰ジャック2021 「電波ジャック決行!?」「こっ…こんなことして、いいのかなぁ!」「かっ、覚悟!」 アイドルスキル 上へ 通常攻撃 「ていっ!」「ほっ!」 エグゾースト 「やぁぁぁっ」 SS発動 「勢いつけてね!」 モスキートV 「ダメって言ったよ!」 絶叫金切りV 「ていっ!」→「きちんとしなさい!」 ベルセルクV 「やぁぁぁ!」「飛んでみたいな!」 シャッフルV 「自由って素敵!」 アンゼリカV 「やぁぁぁ!」→「あっははー♪」 フォロー・ミー 「遅刻は厳禁だよ!」 ドライアイス 「真っ白な世界…」 ATK☆フォーム 「遠慮は要らないよ」 DEF☆フォーム 「怯えちゃダメ…!」 SPD☆フォーム 「しょうがないなぁ!」 CURE☆フォーム 「お手伝い、お願い!」 突撃グルーヴ 「任せたよ」 もっと突撃グルーヴ 「それじゃあ、お願い!」 進めロックンロール 「もう少し、見たいな」 進め!ロックンロール 「強めが丁度良いよ」 伝説のロックンロール 「みんなで乗り切ろう!」 気ままにオンロード 「やぁぁぁ!」 癒しのバラードセイブ・ザ・ソウル 「傷を見せて?」 ギフト・フォー・ユー 「お返ししなきゃ!」 プロのド根性 「まだ…ダメだよ…!」 スルーリアクト 「見切ってみせる」 オーバー・ミニッツ 「できることから始めよう!」 ロケットスターター↑ 「早速だけれど…」 XXXアクシデント 「ドキドキするねぇ!」「まずは弱らせて…!」「ドキドキするねぇ!」「やぁぁぁ!」「ドキドキするねぇ!」「受けてみて!」 ハイ・ギャランティ 「上手く活用しないとね!」 カラフル・ステージ 「効率的に、学びましょう?」 Sメロウタイム 「よそ見はダメ!」 TOKYOアリーナ 「今度の出し物はこれよ!」「いちにっさんし、にいにっさんし♪」「これで、花丸満点でしょ?」 TOKYOアリーナ極 「ミュージック・スタート!」「さぁ、みんなも一緒に~!」「はい、おっしまい♪」 アンゼリカV・マキシマム 「協力おねがい♪」 NPC アイテル 上へ イベント時の会話 コメント欄 とりあえずやっつけ。時間がとれたら全職業の新スキル含めてテンプレ作っておきます -- 名無しさん (2013-04-21 13 27 14) 汎用台詞を少し追加 -- 名無しさん (2013-05-08 22 43 34) アイテル中佐と私の獣耳メミム、この人だったんだ…。 -- うにゅほ (2017-09-13 04 28 18) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nanadorakari/pages/15.html
注意事項 ・エロ無し ・ゲーム本編との矛盾あり ・ハノイファンの方はご注意 ・エンディングまでのただの帝竜討伐話なのでスルーしても無問題 ・中盤以降の帝竜の名前、クエストバレ注意です ・ソウマ、ハノイ女装警報 登場人物 ソウマ・若サムライ。主人公。一応貴族。エリスと一夜だけ抱きあってしまう。無手から斬馬へ。 エリス・ルシェメイジ。元奴隷。ソウマに思いをよせる。無属性魔法と薬学の使い手。 リア・ルシェプリンセス。元奴隷。ソウマとエリスのサポートに回る。聖声の歌が得意。 ハノイ・ラブハンター。その決して折れることのない無敵のハートは少し見習いたい。 『おのれ……人間の分際でえぇぇぇ!』 海上より、艦帝竜ドレッドノートの怒号と弾丸が飛んでくる。 それを迎え撃つは、二人の少女……ではなく、女装した男とちゃんと元から少女の二人組。 ……ようするに、女装をした私とエリスだ。 何故女装をして帝竜と死闘を繰り広げなくていけないのか? まずは今現在、この状況に到るまでの話をするとしよう。 ――――――――――― 「出発の準備はできたか?」 「はい、大丈夫です」 「船もちゃんと動くよ」 エリスを本能の赴くままに抱いてしまった日から二日後、 私達はマレアイア諸島への旅立ちの準備をしていた。 「…?ソウマ様、その刀は……」 「あぁ、これかい?母上の形見の品だ。 本来なら大切に保管すべきだが、平和を取り戻すためなら、母上も許してくれるだろう」 父上の話によると、母上もかつては凄腕の剣客だったらしい。 世界を渡り歩き、ある時は森の細胞を四枚に下ろし、ある時は双頭の魔獣の首を両方撥ね飛ばし、 ある時は巨大蟻地獄を一太刀で両断したらしい。嘘か真か確かめようがないが、 幼い私でも感じとれた『気』から察するに、恐らく事実なのだろう。 そんな母上の愛刀。名前こそ知らないが、きっとこれからの戦いの手助けになるに違いない。 しかし、そんな名刀も、扱う者の技量が伴わなければ意味がない。 故に無手を捨て、斬馬の心得を知るために忘却の海玉を入手しようと思ったわけだが…… この私の浅はかな考えには致命的な欠陥があった。 海玉を入手するだけならば、ただ店で買うだけだ。 しかし、その店に辿りつくこと……そこに到るまでの過程を失念していた。 そして、私が間違った選択をしてしまったと気付いたのは、海に出た直後だった…… 「まずい!二人とも下がって!」 「………!!」 まず最初に立ち塞がった壁、それがこのローパーだ。 エリスもリアもローパーには苦く辛い記憶があり、その影響でまともに詠唱ができなかった。 つまり戦えるのは実質私一人なうえに、こいつらの毒がまたいやらしく、 体が思うように動かずに、何度も海の藻屑になるところだった…… 実に数日をかけてこの近辺のローパーを根絶やしにし、さあ今度こそマレアイアに…… と思った矢先に、 「ソウマ様!波が強すぎて先に進めません!」 とエリスの声が響いた。 なるほど、確かに色合いの違う海域に入った瞬間に、船が押し戻されていた。 「南海は波が独特なの。普通の操舵術じゃ越えられない……えっと…確か…… ゼザの町で『3日で習得!南海操舵術!』の講義をやってる筈だよ」 リアの助言により、一先ず引き返して港町ゼザへ向かい、南海操舵術を覚えることに成功。 第二の壁となった、南海の独特の波を克服し、今度こそ…と意気込んだ直後、 【来た!人間だ!】 【電熱で焼いて焼き鳥だ!いや焼き人だ!】 マンボウらしからぬ過激な言葉と雷撃の使い手、マルマンボウが襲いかかってきた。 ローパーとは違い、エリスもリアも戦えるのだが、このマンボウ、レベルが高い! これが第三の壁、南海の強敵だ。 「マンボウは産卵の際、億単位で卵を産むそうです……」 「普通のマンボウなら食べられて数が減るけど……あれは普通じゃないし……」 エリスとリアの口から出てくる、絶望的な言葉。 私達は僅か三人。 対する敵は、数億のマンボウ、数億の雷。 この世界を襲撃した竜でさえ、その兵力はせいぜい四桁止まりだと聞く。 倒しても倒しても次から次に新たな兵を繰り出されては勝ち目はない。 「さてどうしたものか……二人とも、何かいい考えはないか?」 「私、もっと頑張ります…!マンボウに動かれる前にヘヴンズプレスで駆除します!」 「マンボウに、誰が強者か骨の髄まで教えれば襲ってこないかも……」 二人の意見は異なったが、どちらにせよ共通してやらなければならないことがある。 「……やはり鍛練、か……」 答えは実に単純だった。 それから実に一月、ひたすらに修行の毎日だった。 海上の敵を薙ぎ払い、東大陸と西大陸の一部の竜を殲滅し、フロワロを踏み砕き、 町では山ほどのクエストをこなした。 そしてついに、私が一睨みするだけでマンボウが道を開けるようになった。 マンボウが退き、前方に見えるは目的地のマレアイア諸島。 長かった。実に長かった。だがそれも、もうすぐ終わる。 壁は全て乗り越えた。もう私達の行動を邪魔するものは何も残っていない。 「マレアイアに男の方は入国できません」 壁は……まだあった。 海流だの敵だのですっかり失念していたが、このマレアイアは女性だけの国。 そう、男である私は入国できないのだ! 海玉を買うだけならエリス達に任せればいいのだが、討伐ミッションの受理はそうはいかない。 『ミッションは危険が伴うため、三人以上且つ、Lv40以上の前衛職がいるギルドにのみ与える』 これがつい先日、カザンのメナス補佐官が取り決めた厄介なルールである。 これにより、ミッションを受理可能なのは『ユグドラシル』、『王者の剣』、『ラッキーズ』、 それから疾風の二つ名を持つ女性をリーダーとした正体不明のギルドぐらいである。 私達のレベルは規定の条件を満たしているが、誰か一人がいなくなった瞬間に、 ミッションの受理が不可能になる。まさに今この状態なのだ。 「まいったな……ここまで来て……」 「どうしましょう……」 「お兄ちゃん悪い人じゃないのに……これだからこの国嫌い……」 三人揃って橋の上で溜め息を吐く。 カザン英雄ギルドはその実績で男女問わず入国が許されているらしいが、 私達は名も実績もないただの一般ギルド。ほいほいと入国ができるわけがない…… と、諦めかけたその時、背後から謎の声が聞こえた。 「ラブイズワンダフォーーー!!!」 思わず耳を塞ぐ。なんとやかましい絶叫だろうか。 後ろに振り向くと、桃色の髪とメガネが特徴的な男が立っていた。 エリスと似た装備品から察するに、おそらくメイジだと思われる。 「これはディスティニー!?お城からもラブを感じ!そして目の前からもラブを感じるっ! 凄い!奇跡だ!ミラクルだ!ラブアンテナバリ7状態だ!ギュンギュンラブを受信している! あぁ!愛って素晴らしい!そうは思いませんかそこの麗しきお嬢さん方!」 「「えっ!?いや……あの……」」 桃髪の男はその場で高速回転したかと思えば、いきなりエリスとリアに詰め寄った。 なんなんだこの妙な男は……!エリスもリアも状況が飲み込めていない。 無論私もだ。 「ああ!僕としたことがご挨拶が遅れてしまった!僕は Holy Amorousness Noble Of Invincibility、略してHANOI、ハノイ! 自らは真実の愛を求め、愛を知らぬ人には愛の大切さを説く、孤高の愛狩人さ!」 「ホーリ…え?……ソウマ様、どのような意味ですか?」 「私もあまり自信はないが……直訳すると『無敵の神聖なる好色貴族』だな……」 Holy Amorousness Noble Of Invincibility……ハノイと名乗った男は再びその場で回転した。 何が無敵で神聖なのかはわからないし、本名かどうかも怪しいがひとつだけ確かなことがある。 好色…その意味は【やたらと異性に対していやらしく淫らな気持ちを抱くこと】だ。 つまり、あまり人として誉められたものではなく、 「名も知らない美しきお嬢さん方!僕と永遠の愛を語りまs 言葉が終わる前に私の拳がハノイを吹き飛ばし、美しき海に叩き込んでいた。 「オーケィオーケィ、謝るから許してくれたまえマイフレンド!」 「誰がフレンドだ!二人に手を出したら承知せんぞ!」 海から驚異の早さで這上がってきたハノイに念入りに釘を刺す。 「うぅ……しかし僕はへこたれない!真実の愛を見付けるその日まで!」 ……この男はいつもこんな調子なのだろうか?無敵の意味はなんとなくわかった気がする。 「ところでマイフレンド、ここで知り合ったのも何かの運命だ。 僕のクエストを受けてくれないか?」 「クエスト?」 突如ハノイの口から飛び出てきたのは意外な言葉。 しかしこの好色男から感じるのは並々ならぬ熱意。さぞ大切なことなのだろう。 先程の行動は腹立たしいが、彼も人の子。困っている人を見付けたら助けるのがサムライである。 「……話してみるといい」 「おぉ!流石マイフレンド!恩にきるよ!実はね……」 「ハノイ……君に学習能力というものはないのか?」 依頼内容を聞き終えた私は溜め息をつかざるをえなかった。 ハノイのクエスト、その依頼内容をまとめると、 『お城の中に一目惚れした人がいるけど男だから入国できない。 なので女装して乗り込みたいんだけど、材料がないから持ってきて』 とのことだ。この男の手当たり次第に女性に一目惚れする癖はどうにかならないのか? 「それです!」 と、突然エリスが大きな声をあげた。 「ソウマ様も女装すれば、この国に入れます!」 「ゑ!??」 私の空耳か?今、かなり恐ろしいことを言われた気がするが…… 「エ…エリス、本気で……言っているのか?」 「大丈夫ですよ!ソウマ様端整な顔だちですし、髪も凄くサラサラですし……」 「む、ありがとう…ではなく!流石に体つきでばれると思うのだが……」 「…前にお兄ちゃんに買ってもらったお洋服でごまかせないかな?」 「わ…私にあの服を着ろと!?それも君達のを!?むむむ無茶を言うな!」 「おぉ!その作戦なら僕もわざわざ道具を集めなくて済むね! 僕にも一着服を貸してくれないかな?」 「待て待て待て待て!!全員考え直せ!」 「うぅ……何故このような目に……絶対捕まるぞこれ……」 数分後、結局エリス達に押しきられ、哀れにも女装してしまった私の姿がそこにあった。 (なお、着ている服はエリスのアイゼン式の着物だ) 「ソウマ様、凄く綺麗です……」 「髪をおろしただけでこんなに印象かわるんだね……私もそうしようかな…?」 エリスとリアがそれぞれ女装した私を誉めてくれるが、あまり嬉しくないな…… それ以前にこの作戦、ばれたら不法入国罪になるのではないか? 私はどこまで罪を背負わなければならないのだろう…… 「おぉう、マイフレンド!思わず僕もみとれてしまったよ!」 「やめてくれ……で、ハノイ、君も本当にこの作戦を決行するつもりか?」 「エリスさんから服の貸し出し許可も頂いたことだしね。 僕は告白の言葉を考えてから入国するよ」 そう言うとハノイはいそいそと木陰に引き込もってしまった。 残されたのは少女二人に、今から不法入国を試みる男一人。 極力目立たないように、急いで門を通らなければ、作戦は失敗である。 「い……行くぞ?」 覚悟を決め、私は一歩踏み出す。 門番のところまで、後十数メートル。 もう一歩。二歩。後数メートル。 もう一歩。二歩。三歩。後1メートル。 最後の一歩。 来た、門番だ……! 「ん?ハントマンの娘?ルシェの娘二人にアイゼンの娘一人ね。ようこそマレアイアへ!」 ……あれ? 「……簡単に入国できて逆に怖いのだが……」 「やりましたねソウマ様!」 …何故か、納得がいかない。男としてのプライドだろうか? そうだ、声を出してないからばれなかったのかもしれない! 「……二人とも、少し待っていてくれ。海玉を買ってくるから」 ~道具屋アクア~ 「うふふ~、いらっしゃーい。ゆっくり見ていってね~」 相手はのんびりした女性店主。まずは裏声で試してみるとしよう。 「忘却の海玉をひとついただけないかしら?(アルト)」 「はぁ~い、2000Gでーす」 ま……全く気付かれていない。ならば地声でどうだ! 「あ、あとレグフロイラも(テノール)」 「はいはい~、150Gでーす」 いや気付いてくれ!仕方がない、最大限声を低くして…… 「エクスポータも頼む(バス)」 「はい~、100Gですよー」 キヅイテクダサイオネガイシマス…… 「どうもでした~」 店主がニコニコと笑顔で商品の入った袋を渡してくる。 ねんがんの海玉をてにいれたぞ! と喜びたいのだが…… 「はぁ……」 私の口から出てくるのはため息のみだった…… 「あ、ソウマ様、買えましたか?」 「あぁ、買えたよ……苦もなくね……」 「これで目的のひとつは達成できたね。あとはミッションの受理をすれば……」 ミッションの受理…… 本来はカザンでのみ可能だが、最近では各国の上層部の者から直に受理することもできる。 この国の上層部となると、やはり女王か、噂に名高き騎士団長のどちらかだろう。 正体を気付かれるわけにはいかない。気付かれたいけど、気付かれてはいけない。 流石に謁見の間で男とばれたら、公開惨殺刑は確定だろう。 しかし道具屋の主人は騙せても、女王と騎士団長まで騙せるのか……? 私達はゆっくりと謁見の間に歩を進める…… 「あら、あなた達が帝竜討伐依頼を?ありがとうございます」 「ユグドラシル達は今西大陸の帝竜討伐に向かっていて頼めるギルドがなくて困っていたんだ。 敵はマレアレ神塔と辺りの海を制圧している帝竜、艦帝竜ドレッドノートだ。 塔を占拠している配下の竜は約50匹。まずは左右の塔のロナムを鳴らして……」 女王も、騎士団長も全く私の正体に気が付かずに普通に話がすすんだ。 この国……大丈夫だろうか?いや、私の国も他国をどうこう言えないが…… これではびくびくしていた私が馬鹿みたいである。 「…というわけだ。詳しい話は塔入口の部下に聞いてくれ。ところでお前達……」 突然、騎士団長の目が鋭くなった。その鋭い目が見つめるのは、私達の胸のあたり。 しまった気付かれたか……! 「小さくても気にするな!」 ……本当にこの国は大丈夫なんだろうか? (シャンドラさんの方が私より小さいじゃないですか……) (下手したらお兄ちゃんより小さいかもね……プフッ…) リア、それは酷いと思うぞ…… 「それでは期待しているよ。え~と……」 騎士団長が言葉を詰まらせる。今度はなんだろうか……と思ったが、理由はわかる。 それは私達の呼び方、すなわちギルド名だ。 今まで旅をしてきたが、実のところ私達のギルドに名前はない。 それ以前に正式登録していないため、本来はギルドですらないのだが…… 「すまない、君たちのギルド名を聞いていなかったな。なんという名だ?」 さて……どう返答したものか…… 「とっておきの!スーパーメロウタイムだ!」 その時、謁見の間入り口の扉が甲高い声とともに開かれた。 この声…つい先程聞いたばかりのもの。つまり…… 「美しき、僕の真実の愛の象徴たる方よ!名さえ知りませんが、僕のラブを受け取って!」 「「「「うわああああぁぁぁぁぁ!!??」」」」 ハノイの乱入、そして絶叫が響きわたる。 絶叫の主は、謁見の間にいた『全員』だった。 女王も、騎士団長も、近衛兵達も、私達も、一人残らずの絶叫。 その絶叫の破壊力も凄まじいが、真に凄まじいのは乱入者ハノイのその格好だった。 桃色の髪を後ろで結い、女性らしい髪型。問題ない。 顔には軽く化粧でもしているのか、私よりもうまい見事な女装である。 問題があるのは、その下、着ているもの! ハノイが着ているのは……エリスの『危ない水着』だった! 以前ひょんなことから購入する羽目になってしまった、65000Gのあの『紐』である! 小柄なエリスが着ていた段階で既に限りなく際どかったこの代物を、 エリスより体格が勝る男であるハノイが着たらどうなるか?答えは単純明快。 「シャ、シャンドラ!この変質者を早くつまみ出しなさい!」 「え!?変質者!?違うよ、僕はあなたに会うために忍んでやって来た……」 「どこも忍んでいない!セティス様から離れろこの変質者!」 そう、色々はみ出てしまった完全な変質者の出来上がりである。 そのあまりにおぞましい、全裸の方がまだましな姿に近衛兵は慌てふためき、 騎士団長は逃げ回るハノイを追い掛け回し、女王は昏倒し、 上へ下への大騒ぎ、阿鼻叫喚の地獄画図と化したこの空間。 取るべき行動は…… A 騒ぎに紛れてギルド名を聞かれる前に脱出 B マイフレンドとか言われるとハノイもろとも実刑なので逃げる C これから起こるであろう惨劇をエリスとリアに見せないためにも逃走 D ギルド名を考えてみるために外に出る まぁ結局どれを選んでも、この空間から脱出することに変わりはない。 「それでは帝竜討伐に行ってきます!」 その言葉を最後に私達は謁見の間を後にした。 ――――――――――― そして現在、マレアレ神塔の決戦に至る。 慌てて飛び出して来たため、私の格好もそのままというわけだ。 塔にいた竜の殆んどは戦闘能力が低い幼竜と牙以外特筆する点のない暴竜だったので、 さほど殲滅に時間はかからなかったが、流石に帝竜は一筋縄ではいかない。 艦帝竜ドレッドノート……その名の通り、戦艦の様な姿と能力を有した帝竜。 主な攻撃は三種の弾丸。 単体を狙った、高速射出型の弾丸。 塔の最上階にいる私達を狙うのではなく、塔もろとも貫こうとする散弾型の弾丸。 そして発射数こそ少ないが、発射される弾そのものに自我がある、弾丸ならぬ弾竜。 これらが、海上から容赦なく塔の私達を襲う。しかし、 『ぐっ……またしても……!何故我の弾がはじかれる!?』 その弾丸の殆んどは私達に届くことはない。 ドレッドノートは知るはずもないが、私達が戦っているこの一つ下の階、 そこにはマレアイアの結界の要たる巨大なロナムがある。 そのロナムが持つのは、歌の力を増幅させる機能。今これをリアが有効活用してくれている。 灼熱の韻、堅牢の韻、月明かりの詩…… 三種の歌を織り混ぜ、ロナムの力で塔全域にその力を張り巡らせることで、 私は歌の隙間を飛んできた弾竜を楽に斬れるし、弾丸の殆んどは守護の力ではじかれる。 マナで溢れたこの塔において、エリスの操る空気の盾は絶対に破られないし、弾切れもない。 そう、私達は帝竜を相手に善戦していた。 私の刀が、弾竜を一文字に切り裂く。 エリスのマナの弾丸が、敵の弾丸を撃ち落とす。 リアの歌が、私達に様々な力を与える。 傷らしい傷も負わず、一見すればこちらの圧勝にも見える。 しかしあくまで善戦止まりだった。 確かに、敵の攻撃は殆んど防げる。 ただ、防げるだけ。攻めることが出来ないでいた。 古代遺跡塔の最上階と、その真下の海…その距離はあまりにも離れすぎていた。 刀は届かない。マナの弾丸も、途中で圧縮が解けて四散してしまう。 互いに攻撃が通用しない現状。 延々と時間だけが過ぎる?いやそうではない。 こちらは人間、相手は竜。その耐久力の違いは一目瞭然。 時間が経つ程、リアは喉をいためて歌えず、エリスは詠唱ができず、私は刀を握れなくなる。 そう、このまま防いでいるだけでは、じりじりと追い込まれ、敗北する。 何らかの方法で、攻撃を当てない限り…… 『ぐっ……ぐっ……』 ふと、ドレッドノートの攻撃が止む。 「弾切れ……でしょうか?」 「いや、それはありえな……!!」 言いかけて、気が付く。 ドレッドノートの全身の機関砲などが引っ込み、代わりにその口に熱が集中していることに。 『人間が海の支配者たる我をここまでてこずらせるとは……! だがもう戯れは終わりだ!我が最強の波動砲で、塔ごとあの世に送ってくれる!!』 ドレッドノートの口に、更に熱が集中する。おそらく、この一撃に全ての力を注ぎこむつもりだ。 『波動エネルギー…40%……』 いくらリアの歌で強度の上がっている塔でも、これだけの力で攻撃されたら崩れる……! 『波動エネルギー…50%…』 塔が崩れたら、私達は助からないだろう。 仮に助かっても、ミッションに含まれている塔の奪還は不達成……! 『波動エネルギー…60%…』 膨大なエネルギーが収束段階に入っている。発射まであと数秒程度だろう。 ……悩んでいる暇はない。このままでは敗北確定だ。 『波動エネルギー…70%…』 やるしかない。 刀をしっかりと握りしめ、 塔から飛び降りる 「おおおぉぉぉ!!!」 「ソウマ様!?」 『な、なんだと……!?』 上空からはエリスの悲鳴、下の海からはドレッドノートの焦りの声が聞こえる。 サムライである私が、まともに攻撃を当てるには接近戦以外ありえない。 波動砲の発射準備で、今は対空砲も動いていない。 ならば、その隙に、接近すればいい。 『っ……!』 さぁ、波動砲を取り止め、私の撃墜を優先するか?それとも波動砲を撃って塔を破壊するか? その前に倒す!どんな強者も、頭をやられて無事でいられるわけがない。狙うは頭部! 渾身の力を込めて、刀をドレッドノートの頭に突き刺す。 『ぐっ…がああぁぁぁぁ!!!』 「っぅ……」 落下速度の加わった刀は、帝竜の鱗を砕き、皮を破り、肉を引き裂き、脳に確かに刺さった。 もっとも、落下の衝撃は私の腕にもかなりの負担をかけたが…… 『おの…れ……人間……我…我は竜…帝竜ドレッドノート……こん…な…馬鹿な…』 痺れた腕で、もう一度刀をしっかりと握る。 帝竜の鱗が予想よりも脆いのか、刀の切味がいいのかはわからないが、 力を込めれば、更にその体を斬ることができた。 「さらばだ、艦帝竜ドレッドノート!」 突き刺した刀に力を込めて、真一文字にその頭を切り捌く。 『がっ……!!ぐ……………ぁ……………』 その言葉を最期に、帝竜ドレッドノートはその頭を力なく海に沈め、絶命した。 人間、その気になれば色々と無茶はできるものだな…… 残る帝竜は三体…… 帝竜も、苦戦こそすれ倒せない相手ではなくなった。 艦帝竜の亡骸の上で、次に倒すべき帝竜を考える。 次に倒すべき帝竜は…… A ネバン地方、地帝竜ジ・アースの討伐 B プレロマ地方、空帝竜インビジブルの討伐 C アイゼン地方、炎帝竜フレイムイーターの討伐 D その他雑魚竜の殲滅 →C アイゼン地方、炎帝竜フレイムイーターの討伐 地帝竜はあの『ユグドラシル』が討伐に向かっている。 空帝竜は討伐しようにも、討伐ができない。高空にいる相手にどう戦えと? となると消去法で炎帝竜か……アイゼンに近いのもあるし、これが最善か。 「ソウマ様ー!大丈夫ですかー!?」 と、ちょうど考えが纏まったところで、エリスとリアが乗った船がやって来た。 「あんな無茶しないでください……!本当に心配したんですから……」 「お兄ちゃん、もし機関砲が飛んできたらどうするつもりだったの……?」 船に引き上げられるなり怒られた。 いや、確かに我ながら無謀だったとは思うが、あのままではジリジリと追い込まれてだな… しかしここは謝罪すべきか…… 「すまない。次は気を付けよう」 「約束ですよ…?」 「次はどこに行くの…?あと討伐報告は……?」 「アイゼン付近に潜む炎帝竜フレイムイーターを討伐する。 それと報告なんだが……正規ギルドでないことがばれる恐れがあるのと…… 多分ハノイの血で染まったであろう謁間の間に入りたく無くてな……」 全てが本音である。色々な意味でマレアイアには戻れない。 仮に血染め状態でなくとも、あの水着を渡した(ハノイが選んだのだが)のが私達だと ばれると、不法入国罪に色々おまけがついてきて厄介であるし。 それに討伐報告をせずとも、この亡骸を見れば討伐完了は伝わるだろう。 報酬金が貰えないが、金銭の為に戦っているわけではないし、それも問題ない。 今すべきことは、迅速な帝竜の討伐だ。 西大陸の地帝竜ジ・アースは『ユグドラシル』とネバンプレスの名将二人が討ち取るだろう。 ここで私達がフレイムイーターを倒せば、残る帝竜はインビジブルのみ。 そう、平和な世界は近い。もうすぐ元の世界に戻るのだ。 平和な世界を夢想しつつ、船の舵をきる。 向かうは、フレイムイーターの潜むとされるドーマ火山……! ……と決意も新たに火山に向かった筈なのだが…… 「いいお湯ですねソウマ様」 「あぁ……」 「お兄ちゃん顔が赤いけどもうのぼせちゃった…?」 「あぁ……」 なんで二人と混浴するはめになっているのだろう……? ドーマ火山のすぐ近くに構える温泉宿『ニギリオの館』 数日の船旅の疲れを取るためにここに宿泊したわけだが…… ご覧の有り様である。 確かに温泉宿で温泉に入らないのは八割を損している気がするが、混浴とは聞いていなかった。 しかも温泉はこの大きな露天風呂ひとつだけ、入浴客は私達以外にも当然いる。そしてその他の入浴客の視線がさっきから凄く痛いのだ。 (あの野郎……羨ましい……) (くそっ!タオルとれろ……!) (ウホッ、いい男……) などの小声まで聞こえる。 まぁ……前後から妙齢の美少女に抱きつかれている私は明らかに周囲から浮いているだろう。 今まで何度か二人同時に抱きつかれたことはあるが、未だにこの状況は慣れない。 いやむしろ慣れることができる人物がいるなら会ってみたい。 「んっ……私も…のぼせちゃいそうです……」 後ろから蕩けた声でしなだれかかってくるエリス。うん、胸が当たっている。 「ふぁ……私も……」 前から熱っぽい声でしなだれかかってくるリア。うん、ポジションが最悪だ。 ……動けないのですよ、一般客の皆さん! 二人の露骨な誘惑に負けることができたならどんなに楽か…… しかし既に一回、本能のままにエリスを抱いてしまっている私としては自制心が働く。 サムライたるもの、情事色事は婚約し、しかる後に行うべきことであって、 このような誘惑に負けてしまってはいけないのだ。平常心、平常心…… それにエリスはともかく、リアにまで劣情を抱くのは…… ……いやいや、何故エリスを除外しようとしているんだ私は!? 悟りの境地はまだまだ遠そうである…… 「「「うっ!……ふぅ」」」 ……私を睨みつけていた数人の客の声が重なった。 そして彼らのいるあたりの湯に何か白い浮遊物が…… ……どうやら少なくとも彼らよりはマシなようである。 さてそれはそれとして、そもそも何故この宿に連泊しているのか? 私達は当初、帝竜フレイムイーターの討伐のためにこの地に足を運んだわけだが…… 正直な話討伐は拍子抜けだった。時は三日前に遡る…… ――ドーマ火山に入ってすぐ、直進しただけで目的のそれはそこにいた。 予想外極まりない。何故こんな入り口付近で堂々としているのか? 軽く調査するだけのつもりが、いきなり最終目的に辿り着いてしまった…… さて、この場合選択するべき行動はなんだろうか? A とりあえず敵の力量を知るために軽く戦って逃げる B 当たって砕けろ! ここで私達が選んだ選択はAだった。 危なくなったら直ぐに退く。敵の弱点を知れたらいいと思っての行動だった。 『貴様らは……あの連中とは違うようだな。まぁいい……我が焔の前に沈むがいい!』 唸りをあげて炎帝竜フレイムイーターが翼を広げる。そして戦いが始まった…… …… ………… ……………… 「……どうしようかコレ?」 軽く溜め息を吐く私の手に握られるは、ほんのり熱を持つ炎帝竜の尾…… そう……勝ってしまったのだ。 確かに自動回復は厄介ではあったが、サムライの最高奥義『双つ燕』で血管を狙い斬りした結果、 一発で主要な血管の断裂に成功し、回復を遅らせることができた。 自慢気に使ってきたフレイムヴェイルもエリスのマナバレットの前には全くの無力で…… 本当に、実にあっさりと炎帝竜は陥落したのだった。 本来なら喜ばしい事態なのだが、ミッション受理をする前に倒してしまったのが問題だった。 (ミッション受理前に標的を倒してしまうことはかなりの重罪。但し例外もある) 「流石にこれはまずいな……」 ピッ→A 偽装工作 直後……なんの躊躇いもなく私は行動に移っていた。 もう犯罪行為に対する私の感覚は麻痺しているのかもしれないな…… とりあえずフロワロシードを植えて表向きは帝竜が健在な様に見せることにして、 そのまま私達はそそくさと宿に戻ったのだった…… そしてその日の夜、宿の受付を済ませ、私達は二階の部屋を割り当てられた。 ちなみに、エリスもリアも一緒の一部屋だけだ。耐えろ私! その割り当てられた部屋の扉から見て、左に数歩行ったところにある一際大きな扉。 そこにこの宿の主であるジェンジェン爺がいるらしい。 帝竜討伐が既に知られているかどうか……その探りを入れる為にここに来たわけだが…… 「…!……!!」 部屋からは何故か怒鳴り声が聞こえた。 様子が気になり、扉を開けると…… 「貴様っ!使用人の!ルシェの分際でこのジェン爺様に逆らうかっ!?」 「いやっ……!」 鞭をふりおろす老人と、怯えて蹲る緑髪のルシェの少女がいた。 その瞬間に全てを悟った。この宿は『そういう』宿なのだ、と。 そして考えるよりも前に、また体が先に動いた。 「やめろ!!」 抜刀からの一閃で鞭を両断する。 このまま返す刀でこの老人も斬り捨てたいが、流石に少女の前で血を見せるわけにもいかない。 「な…なんじゃお前は!」 突然の強襲者に慌てふためく老人――恐らくこの老人がジェンジェン爺だろう。 さて、いきなり斬りかかったはいいが……どうしたものか…… 「何とかいったらどうじゃ!このジェン爺様にたてついて……」 己の富と名誉にしがみついた哀れな老人か…… 何故こうもルシェを人として扱わない輩が多いのか理解に苦しむ。 回りくどいことはぬきで話すか。 「……単刀直入に問う」 「短刀直入じゃと!?」 ん?何故この段階で驚かれたのだろう? 「そうだ。何故この少女に鞭を……」 「…………」 「おい!聞いているのか!?」 少々声を荒げて問いつめるが、どうにも反応がない。 いや、何か小声でぶつぶつと言っているような…… ――ジェン爺の脳内―― 短刀直入じゃと……!? わしの使用人の躾ぐらいでこの若僧は何を言っているんじゃ……!? いやだが…だがしかし!この男の目は今まで数々の獲物を斬ってきた目だ……!やられる……! それにその刀は短刀じゃなかろう!?完全に長刀の類じゃろう!? 直入……じかにいれる……あれを……わしに…… 入れたら次はえぐるのが定石……あんなもので体内をえぐられたら…… 死……!まごうことなき死……!完全なる死……!死んでしまう……! たかが使用人一人のせいで、わしが……! 「……!」 私の顔を見たり、刀を見たり、自分の腹を見たり、倒れている少女を見たり…… ジェンジェン爺は落ち着きなくあちこちに視線をさまよわせる。 ……これでは埒が明かないな。 「聞いているのか!?」 「ヒィィ!?ふ…ふん!運が良かったな。今日はMANAが足りないらしい。 だからわしはもう寝る!その使用人を連れてさっさと出ていかんか!」 ……上から目線の高圧的な態度は気に入らないが、一応この少女を解放する気はあるらしい。 それならば今は深追いの必要もない。 「大丈夫かい?」 「う…うん……あ…ありがとう…」 廊下で少女は一礼だけして、慌てて去っていった。 傷の手当てをしてあげたかったが……仕方がないか。 しかしあのジェンジェン爺の性格からして、迫害されているのはあの少女だけではないだろう。 どうやらもう数日滞在して様子をうかがう必要性がありそうだな…… ――これが三日前の出来事、そしてこの宿にわざわざ連泊している理由なわけだが…… 少し違った理由でもこの宿にとどまるはめになっている。その理由が…… 「ソウマ、背中流すね?」 湯桶を片手に持った緑髪のルシェの少女――アリエッタである。 ジェンジェン爺に叩かれていた、あの少女だ。 あの日彼女を助けて以来、アリエッタは色々と世話を焼いてくれるのだ。 何かを求めて助けたわけではないが、助けてくれたせめてものお礼がしたいとのことらしい。 ジェンジェン爺もあれ以来おとなしくなった様で、次の目的地に旅立とうともしたのだが、 アリエッタのたっての願いとあって断われず、ずるずると日が進み現在に到る。 どうやら本気でのぼせてしまったらしいエリスとリアを湯からあげて、 アリエッタが私を椅子に座らせ、背中を洗う。 「私はメイドだから……出来るお礼はこんなことぐらいしかないけど……」 「お礼目当てで助けたわけではない。気にすることはないよ」 「……ありがとう。でもやっぱり……ちゃんとお礼はしたいんだ……」 この時の私は…そのお礼、このあと起きる出来事など……予想だにしていなかったのだ…… 「よいしょ…と……」 布団にエリスとリアを寝かせ、毛布をかけてやる。 二人とものぼせたせいか、ぐっすりと眠っている。 ……今夜は久しぶりに一人でゆっくりと眠れそうだ。 実はここ数日、左右から二人の抱きまくら代わりにされてろくに寝れていないのだ。 押し入れからもうひとつ布団を取りだして、私も横になる。 本当に久々の広々とした布団だ。 撫でる頭がないのが少し寂しいが、考え事をしながら眠るには一人の方が落ち着く。 艦帝竜ドレッドノートは討ち取った。 そして炎帝竜フレイムイーターも討ち取った。 『ユグドラシル』が赤帝竜、黒帝竜を討ち取り、まもなく地帝竜も討ち取るだろう。 もうすぐ……平和が訪れる。 竜の減少、地道な駆除作業のおかげでフロワロも確実に減っている。 滅びてしまった町も、ゆっくりとだが再建が始まっている。 そう、今確かに、平和な元通りの世界に向かっている。 全て終わって、元に戻ったら……エリスと一緒に暮らそう。 貴族の暮らしには戻らずに、どこかでのんびりと…… そして…… コンコン… 扉を叩く音に夢想は中断され、意識が現実に戻される。 こんな夜中に誰が?と、多少警戒しながら扉を開けると…… 「ソウマ……ちょっといいかな…?」 仕事着のままのアリエッタが、申し訳なさそうに立っていた。 「アリエッタ……?どうしたんだ?」 こんな時間にわざわざ訪ねてくるからには何らかの事情があるのだろう。 扉を完全に開いてアリエッタを部屋の中に入れる。 「うん……あのね……」 アリエッタが口を開いてから、数秒静寂が訪れた。そして…… 「お礼を……しに来たんだ……私に出来る、限界のお礼……」 「何を…んっ!?」 次にアリエッタの口が開かれるのと、私の口が塞がれるのは、ほぼ同時だった。 「んっ……ちゅ……」 「んぐっ!?」 アリエッタの柔らかな舌が、私の喉奥に何かを押し込んだ。 「くっ……アリエッタ…何を……っ!?」 押し込まれた何かが喉を通ると、途端に体が熱を持ち始めた。 ……確認するまでもない。これは媚薬だ。それもかなり強力な…… 「ごめんね……私はお金もないし、一緒に戦う力もないから……出来るのは、これぐらい……」 そういうとアリエッタは自らの服に手をかけはじめた。 「待て……アリエッタ……」 なんとかアリエッタをひきとめるが、薬のせいか思うように力が入らないし、思考まで鈍ってくる。 しかし、ここで屈するわけにはいかない。 「こういう…ことは……むやみにしてはいけない…… 本来……心に決めた…大切な人と……時をわきまえて…するべきことだ……」 「真面目だね……でも、エリスとはもうしちゃったんじゃないかな……?」 「!?!?」 馬鹿な…… 会って僅か数日で……よまれたというのか…… 自分でも取り乱しているのがよくわかる。 そしてその反応は、肯定の証にもなってしまうことも…… 「くすっ…二人と温泉入ってた時、『駄目だ駄目だ…』とか言ってたら誰でもわかるよ…?」 声に出ていたのか……!!! 穴どころかティラノザウルスの口の中に入りたい気分である…… 「でも……一度きりなんでしょ?……かなり我慢してない…?」 アリエッタの指が、私の寝間着の帯をほどきにかかる。 構造上、はぎとられるのも時間の問題だ。それに薬も入っていて状況は最悪である。 「だから…代わりに私を使って楽になって……?大丈夫…私は人じゃなくて、物だから…… あなたの好きにしていいよ…?それが、私にできる精一杯のお礼……」 くっ…………! A アリエッタのお礼を受け入れる B エリスが目覚めて止めてくれる C リアが目覚めて止めてくれる D 一発逆転のアイデアに賭ける E サトリの境地で危機脱出! F 乱入者を誰でもいいから期待する G 上記以外の出来事が →B エリスが目覚めて止めてくれる のを期待したいが……目覚めたら目覚めたで別の問題が……! 「ほら、横になって……?」 服を脱ぎ捨て、産まれたたままの姿になったアリエッタに押し倒される。 ……前衛職の私が、一般人に簡単に押し倒されるのはどうなんだろうか? いやそんなことは今はどうでもいい。この体勢は最早絶体絶命である。 「ア…アリエッタ……やめるんだ。今ならまだ間に合う……!」 「大丈夫だよ……」 「大丈夫ではない……!いや、そもそも…何が大丈夫なんだ……」 「私はそういう商品……『物』だから……気遣いはいらない……」 「そんなことはないっ……君は『物』ではない……!」 「……ありがとう………」 喋っては後退、喋っては後退を繰り返して逃走を試みたが、とうとう壁にぶつかってしまった。 アリエッタも礼を言いこそすれ、私の寝間着から手を離さずににじりよってくる。 前門のアリエッタ、後門の壁……限りなく詰みに近いこの状況。 こうなったら頭突きでこの壁を壊して、そこから隣の部屋に逃げるしか……!? 駄目だ……隣の部屋の客人に通報されるだろうな。 それ以前に頭突きで壁を破壊するという発想が馬鹿げている。 頭突きの威力など、たかが知れてい 「ななななななにをしてるんですかああぁぁぁぁ!!!」 エリスの ロケットずつき! こうかはばつぐんだ! マナのそれとは異なる、実体をもった白銀の弾丸―― エリス渾身の滑空頭突きがアリエッタに炸裂した。 衝撃の光景から約1秒後、どさり……とエリスとアリエッタ、両名が床に倒れ伏す。 が、すぐさまに頭をさすりながら二人ほぼ同時に起き上がる。 おそらく、エリスのあのふわふわの耳が激突時の衝撃を拡散させたのだろう。多分。 なんにせよ、ギリギリだったが素晴らしい助け船だ。やはり私の選択は間違っていなかった! 「いたたた……いきなり頭突きって……何するの……?」 「それはこっちの台詞です!ソウマ様に何をしているんですか!?」 「何って……こういうことだよ?」 「そん…な……」 さらりと言ってみせるアリエッタと、ガクリとうなだれるエリス。 何か……凄く嫌な予感がして仕方がない……選択を間違えた、そんな予感が…… 「ソウマ様……」 目に涙を溜めたエリスがこちらに顔を向けてくる。 「いや……捨てないでください……っ!」 そして、それとほぼ同時に飛び付かれ、泣き縋られた。 「え…?え……!?ど…どうしたの……!?」 突如泣き出したエリスに驚き、アリエッタが慌てふためくが、 私は落ち着いてゆっくりとエリスの頭を撫でる。 エリスと出会い、初めて会話した時も、取り乱した彼女はこの言葉を口にした。 『捨てないで』……あの時と同じ言葉。 エリスの幼少期、筆舌に尽し難い過酷な境遇、奴隷としての生活を表した言葉。 どんなに悪逆無道、この上なく冷酷な主であっても彼女は捨てられる事を恐れたらしい。 幼い自分がいきなり外に放り出されては、生きのびていくことが不可能だから…… それもあっただろう。しかし、本当の理由は違うように思える。 エリスは……独りになるのが怖いのだろう。 どんな仕打ち、虐待以上に、孤独になることが、何よりも…… 先程、エリスの目に私とアリエッタはどう映っただろう? 服がはだけている私と、服を着ていないアリエッタ。 暗い室内、そしてこの時刻である。 ……何も知らない者が見たら、『私が』アリエッタに夜伽を命じたように見えるだろう。 これまでに何度かエリスのその手の話を断っていた私が、 会ったばかりの使用人の少女にはそれを平気で行う…… 誤解ではあるが、エリスはそれを見て自分が『捨てられた』と思ったのだろう。 そんなことは、ないというのに…… 「エリス……落ち着いて……大丈夫だから……」 「うっ…ぁぁ……」 未だ泣き続けるエリスの頭を、こちらも撫で続ける。 ただただ、撫で続ける。 しばらく撫でて、ようやくエリスは落ち着いてきた。 「……落ち着いたか?」 「ひっく……ソウマ様…やっぱり……胸が大きい人の方が…いいんですか……? だから……アリエッタさんの方を……」 「いや「ごめんね……悪いのは私の方……」」 私の言葉よりも早く、アリエッタがエリスに頭を下げる。 服もいつの間にか元通りに着こなし、そしてここに到るまでの経緯をエリスに説明してくれた。 「本当……ですか?」 「うん…押し掛けたのは私の方。……これ以外、お礼の方法がわからなくてさ……」 「でも!助けてくれたお礼を体で払うのは間違っています!」 「いやエリス……君も最初私に同じことをしただろう……?」 思わずツッコミを入れると、エリスは顔を赤くしてうつむいてしまった。 しかし、ツッコミはしたが、二人は決して悪くない。 そもそもの発端、諸悪の根元は、そんな礼の仕方を教えた者達なのだから…… 「それじゃ二人とも…本当にごめんね……お礼は別の方法考えるから……」 そう言ってアリエッタは部屋から出ていこうとするが、扉を開けたところで立ち止まった。 「ね、ソウマ、今夜はエリスと一緒に寝てあげなよ。…その方がきっと落ち着くだろうし…さ」 どこか寂しげな声でそう言い残し、今度こそアリエッタは部屋から出ていった。 「……ごめんなさい」 それを見送るエリスも、小さな声でそう呟いた。 が、すぐに私側に向きなおし、正座をして私の眼を見てきた。 「ソウマ様……また取り乱してしまいましたが…… 本当によろしいのですか……?私は……ご迷惑なだけなんじゃ……ん!?」 言い終える前に、その小さな唇を塞いでやる。 ……普段の私なら、多分とらない行動だろう。 アリエッタに飲まされた薬の影響か、先程のエリスの悲痛な叫びの影響かはわからないが…… ただ、そうしたかった。 しかしそんなに時間はかけずに、エリスを解放する。 「そんなことはない……エリス、あの日、約束しただろう?……君を独りにすることはない」 「!!……はい!」 嬉しそうに、私の大好きな笑顔でエリスが私の胸まで飛込んでくる。 再びその頭を撫でながら、二人で布団に潜り込む。 が、 「それじゃ、おやすみエリス。いい夢を」 「おやすみなさいソウマ様……」 夜に男女がひとつの布団に潜り込んでも、私は『昨夜はお楽しみでしたね』のイベントは起こさない。 これはけじめであるし、さっきアリエッタにそう言って直後でもあるし。 …… ………… 正直に言うとかなり我慢しているのだけれども。私だって聖人ではないし。 アリエッタのあの薬、効果持続時間はわからないが、かなり厄介な置き土産である。 すぐ横で、早くも安らかな寝息をたてて微笑んでいるエリスを見ると……非常に危ない。 「……まいったな」 小声で愚痴をこぼすが、状況は変わらない。 しかもしっかりと腕を背中に回されているので動くことさえままならない。 ……これは今夜は眠れそうにない。 頭の中で気分を限りなく盛り下げる映像を何度も再生する。とにかく、別の事を考えねば。 そんな状態で、夜が更けていった。 「だ……大丈夫ですかソウマ様?顔色が真っ青ですが……」 「だ……大丈夫だ……」 結局一睡もできず、過去の父上の酒宴での醜態などを思いだし続けたら吐き気までしてきた。 ……子は親に似るというが、私もいつかああなってしまうのだろうか……? 「スー…スー…」 リアはまだ寝息をたてているが…昨夜のやりとりなどを聞かれてはいないだろうか……? 確認のしようがないが……聞かれていないと思う。多分…… 「おはよう!朝ごはん持ってきたよ」 と、そこに朝食を持ったアリエッタがやってきた。 「ん?確か注文はまだしていない筈だが……」 「……これは昨夜のせめてものお詫び。タダでいいよ。あ、あとね……」 何かを思い出したように、エプロンのポケットの中を探すアリエッタ。 そして出てきたのは…… 「これ…!今朝の新聞なんだけど…『帝竜ジ・アース討伐される』…だってさ!折角だから読むね。 西大陸を制圧していた地帝竜ジ・アースが昨晩、ユグドラシルとネバン連合軍に討伐された。 先日、謎のギルドによって艦敵竜ドレッドノートも討伐されており、 残る帝竜は炎帝竜フレイムイーター、空帝竜インビジブルの二体のみとなった。 帝竜最強とされているキングは既に討伐され、残る帝竜も僅かな今、 平和な未来は限りなく近いと言っても過言ではないだろう。 また、艦帝竜を討伐したギルドの正体は未だ謎のままだが、いくつか情報が入っている。 一人は、鬼のような形相で竜を粉々に切り刻むという、恐ろしいサムライ。 一人は、銀髪の魔術師で、そのマナの弾丸は正確に敵の眉間を貫くという。 最後の一人は、帝竜の砲撃を完全に防ぐ程の防壁歌を操るという、驚異の歌姫。 この三名に対し、カザンのメナス補佐官は便宜上、以下の仮称で呼ぶことを決定した。 サムライ『殺戮の凶刃』・魔術師『魔銀の狙撃手』・歌姫『戦慄の旋律者』 この謎の三名の情報提供者には大統領府から特別金が……あれ?二人ともどうしたの?」 「い…いや…なんでもない……」 「もうすぐ平和になるんだってさ!いいニュースだよね」 「そ…そう…ですね……」 ぎこちない笑顔を浮かべた後で、エリスと顔を見合わせる。 ……確かに、帝竜討伐はいいニュースだ。だが……後ろにあった余計な文。これがまずい。 どう考えてもその『謎の三名』は私達であって、しかも恐ろしく脚色されている。 さらには妙な二つ名までつけられる始末。しかも害を為す敵のような名前である。 特に私の『殺戮の凶刃』なんて、どう聞いても人間を死の淵に沈めるFOEの様な名前である。 カザンのメナス補佐官……この酷いネーミングセンスの持ち主を、私は一生忘れないだろう。 そして、私達の情報提供者には特別金が出る……これは…捕まえる気なのだろうか? 「ほら!折角のいいニュースなんだし、ご飯もきっと美味しいと思うよ。リアも起こさないと…」 「す…すまない」 まあ確かに、後ろを気にしなければいいニュースである。 わざわざ持ってきてくれたアリエッタの為にも、ここは美味しく朝食を頂くことにしよう。 そう思った、その時 外が、空が、暗くなった。 窓を開けて、暗くなった空を慌てて見やる。 雲は一切ない快晴の天気の筈なのに、何故か空は淀んでいた。 そしてその空の一点に見えるは紅い星。 いや違う。凄まじい速度でこの星に飛来する『何か』だ。 それは、見る見る大きくなり、そして北の大地に突き刺さった。 その瞬間、衝撃が走った。 着弾点である北の大地も、今いるこの東大陸も、恐らく離れた西大陸も…… この星そのものが、衝撃に揺れた。 揺れが収まり、ここからでも視認できる紅い『何か』をもう一度見る。 それはまるで、フロワロの様な紅と紫を基調にした色で。 それはまるで、生きているかの如く怪しくうごめいていて。 それはまるで、開花する華の様に大きく広がって。 そして 声が聞こえた 『おはよう…エデンの諸君』 低く、響き渡る声で、あの紅い『何か』の上から 世界中を絶望させるような、そんな声で告げられる言葉 帝竜が減り、人が平和な未来に望みを持ったばかりだというのに…… まるでそれを嘲笑うかの様に…… 今まで世界中で頑張ってきた人の思いを無に帰す様に…… それは突然、なんの前置きもなく現れた…… 『我はグレイトフルセブンスがNo3…真竜ニアラ。その名において、この星の全てを喰らう!!』 その日、新たな災厄『真竜』の声は、確かに世界に恐怖をもたらした。 真竜の襲来から、一夜が明けた。 「……」 「……」 「……」 私も、エリスも、リアも……無言であった。 「おはよう……朝ごはん…持ってきたよ……」 そしてアリエッタも……必死に笑顔を作ろうとしているが…無理をしているのがよくわかる。 原因はおそらく、真竜ニアラと、昨日の夕方の号外新聞だ。 その内容は……あまりに惨いものだった。 突如来襲してきた真竜ニアラに対し、プレロマは秘密兵器『千人砲』で攻撃。 撃破には到らなかったものの、深手を負わせることには成功した…… この記事だけを見れば、もう一発千人砲を使えば倒せる!……そう思うだろう。 しかし、千人砲にはある犠牲が伴っていた。人の…千人の命である。故に千人砲。 今回千人砲の人柱となったのは、全てがネバンプレスの住人……ルシェだった。 しかし彼らは、無理矢理ではなく、自らの意思でそれを希望したという。 誇り高きルシェの魂は、次の世代の者に受け継がれると言って、躊躇いもなく…… そしてそれだけの犠牲を払っても真竜ニアラは倒せなかった。 喰らった攻撃を吸収し、以後無効化する能力と驚異の再生能力。これが真竜ニアラの力。 この能力のせいで千人砲はもう二度と通用しないうえ、早くしないとその傷まで癒えてしまう。 そのうえ、問題はまだあった。 「……これ、いいかな?」 「うん……」 すっかり元気を無くしたアリエッタから新聞を受けとる。 たった一日で、こんなに変わってしまうとはな…… そして新聞の内容も、一日で大きく変わってしまった。 一面を飾るのは『装真竜ヘイズ』による被害状況。 装真竜ヘイズ…… 千人砲の砲撃で動けないニアラの代わりに人間の『刈り入れ』を任されたニアラとは別の真竜。 そのヘイズは拠点としてミロス付近のバロリオン大森林を選び、そして……虐殺を始めた。 新聞の一面、被害状況…犠牲者の数は……はかりしれなかった。 ミロス第二、三、五、六、八騎士団は一人残らず死亡。 せめて遺体の回収だけでも…と向かった14のヒーラーギルドも一切行方がしれない。 千人砲の犠牲になった者の敵討ちにと飛び出したルシェ騎士団も未だ帰らない。 真竜を討伐し、名をあげようとして壊滅した一般ギルドもかなりの数だ。 たった一日、たった二体新たな竜が来ただけで、人間と竜の力関係は再び逆転してしまった。 そして今度は…… 三年もの猶予は…… 間違いなく存在しない。 このままでは一月と待たずに……人間は滅びるだろう。 アリエッタが持ってきた朝食も、美味だが喉を通らない。 千人砲で散ったルシェ、人々の心に恐怖を植え付けたニアラ、そして今も人を刈るヘイズ…… それらに対する思いが、部屋の空気を重くする。 コンコンコン…… 「…?誰だ?」 その空気を一時的に破ったのは扉のノック音。 しかしアリエッタはここにいる。一体誰が…? などと考えているうちに扉が開いた。 「はぁ…はぁ…この中に…ハントマンの方はいらっしゃいますか!?」 息を切らして現れたのは深緑髪の若い男だった。見しらぬ顔である。 確かに私達はハントマンではあるが、何故いきなり私達の部屋を訪ねてくるのか…? 「何故ハントマンを探しているのだ?」 とりあえず、まずは自分達の正体を隠して、相手の出方をうかがってみる。 「申し遅れました……私はノワリー。プレロマ学士長代行です。 現在真竜ヘイズ並びに真竜ニアラ討伐のために各地に散らばっているハントマン…… ギルドに、カザンに集まるよう招集をかけているんです。あなた達は…ハントマンの方ですか?」 「……っ」 返答に困った。 予想外の人物の来訪で驚いたのもあるが、問題なのは話の内容。 真竜ニアラと真竜ヘイズの討伐……確かにそう聞こえた。 絶望のどん底にたたき付けられ、殆んどあきらめていた人類に、 まだこんなことを考える人が残っていたとは…… 私は…… A 滅びてなるものか。誘いにのり、三人でカザンに向かう。 B あがいても手遅れだ。残り少ない時をエリスと過ごす。 C プレロマは千人砲を使った国で信用ならない。独自で真竜対策をたてる。 D エリスとリアの心の傷が心配だ。一人でカザンに向かう。
https://w.atwiki.jp/nanadorakari/pages/87.html
あたしは急ぐ。 こんな、こんなはずじゃなかった。 ほんとならとっくに終わらせて、姉御のところに戻ってるはずだったのに。 ここはどこ? 辺りの景色はどこもかしこも見たようで、出口の無い無限回廊に迷い込んだような錯覚を感じる。 ない。ない。ここにもない。 お願い、あの角を曲がったら。 ……その先に続くのは同じように続く廊下。 軽く絶望で心が塗りつぶされそうになる。 止まっちゃ駄目だ。限界は近い、もうすぐ急げなくなるかもしれない。 なんとしてもその前に見つけなくちゃ。 心を奮い起こし、再びあたしは急ぎ始める。 ……トイレ、どこ………? ――五時間前、午前6時40分。 窓から差し込む日が眩しい。 小鳥のさえずりに引き寄せられて、あたしは現実に浮かんできた。 身体を起こして窓から見上げるとミロスの美しい空が見えた。 うん、今日もいい朝だ。 歩きながら腕を頭の上で組み、目一杯伸びをする。 若干身体を捻りながら背骨を鳴らすと、眠気が少し消え代わりに爽やかな気分が沸いてきた。 ドアをくぐる。 テーブルの向こう、あたしの向かいに光の反射で紫に見える黒髪の女の人が座っている。あたしの師匠だ。 テーブルの上には七人分の朝食。ちなみにその内容は 白いご飯。 味噌汁。 焼いたメザシ。 漬物が少々。 小鉢に納豆。 ……いまどきアイゼンでもなかなか見ない朝食ではなかろうか。 「って言うか、姉御料理できたんですね……」 「起きてくるなり開口一番それか」 あたしの口からつい漏れた本音を耳ざとく聞きつけた姉御が、味噌汁をすすりながら軽く睨んでくる。 「前から思っていたがそもそもお前は私をどんな風に見ているんだ。 昔からよくお手伝いをしてさっちゃんはいいお嫁さんになるわねと言われた私だぞ」 「へぇーへぇーへぇーへぇー」 「こいつ……」 「えー、だってギルマスもリーダーも姉御は料理が出来るなんていってませんでしたよ? 他に誰もいないときは自分で何か作れって」 「む……そうなのか?昔おままごとで泥団子を喰わせた事を根に持ってるんだろうか……」 「何やってんですか」 「まさか本当に食べるとは思わなかったんだ、大体食うほうも食うほうだろう」 「いや、そりゃそうですけど……」 「まあなんだ、もうこの話はいいだろう。……おはよう」 「……おはようございます」 「おはよう、今日もいい朝だね……」 テーブルについて朝食に取り掛かっていると、朝だと言うのにメイジ衣装フル装備の男の人がやってきた。 席に着き、肩まであるボサボサの青髪を手櫛しながらふああふ、とあくびをひとつ。 「ああおはよう、また徹夜したのか」 「うん……帳簿つけて届出の書類書いて内職やって新しい魔法の詠唱書いてたらいつのまにかこんな時間でさ……」 「あの、昨日もそんなこと言ってませんでしたっけ?ほんとに寝てます?」 「寝なきゃ人間生きていけないでしょー。少なくともおとといは……あれ?その前だっけ?えーとちょっと待ってね」 「食え。そしてさっさと寝ろ」 この人がうちのギルマスだ。 性格はなんというか、理知的で柔和ないい人なんだけど電波体質なのが玉にキズだ。 完璧な人間をやって尊敬されるよりも見下されてでもネタを仕込みたいという彼の美学は理解できない。 そんなギルマスだが放っておくとすぐ肉体の限界まで仕事や研究をやって過労で倒れるので注意が必要だ。 暇さえあれば本を読んでいるくせにギルドの誰より(ローグであるあたしより)目がいいという分からない人でもある。 「朝っぱらから寝てたら駄目人間でしょーが、まだ大丈夫だよ」 「お前は別ベクトルですでに駄目人間だ。いいから寝ろ」 姉御達が押し問答をしているうち、残りのメンバーが起き出してきた。 さっきまで朝の静けさに包まれていた食卓に、にぎやかさと活気が満ちてくる。 「味噌汁……懐かしい味だ」 あたしの右前方にいる丈夫そうなファイターの人がリーダー。 ギルマスがいるのに別にリーダーがいるのかと突っ込まれそうだが、あまり気にしないで欲しい。 しいて言うなら机仕事はギルマスが、畑仕事はリーダーが先導することが多いのでこういう呼び名になったみたい。 実直だけどギルド一物分りのいい人間の出来た人で、かついい感じにヘタレなのが何ともいえない。 苦手なものは爬虫類全般(何でこの人ハントマンになったんだろう)、特にワニが大嫌いらしい。 「懐かしいですか……私にはまだ良く分からない味ですね……」 その隣で味噌汁と格闘している女の人が副長。 ギルマスがいてリーダーがいてその上副長がいるのかと(以下省略)、 これはあだ名だ。眼鏡の真面目そうな冒険者がいいんちょと呼ばれていても変には思わないでしょ? ちなみに命名はあたし。リーダーについて歩く様子と、ナイトらしい生真面目な性格からなんとなくつけた。 正義感が強く、というか強すぎて若干空回り気味なところもあるけど自己反省を忘れないいい人だ。 「……」 あたしの正面でもくもくと漬物をつついているのが姫ちゃん。 正直この子のことはよくわからない。無口な子だ。 頭の上で耳が揺れているが実はこの子はルシェでは無い。つけ耳だ。 従ってこのギルドには一人もルシェがいないことになるが、ギルマスいわく別に雇用機会均等法に 喧嘩を売っているわけではなく単に出会いが無かったから……らしい。 あの耳はルシェの親友から送られたおそろいのもので、その親友はいまはこの世にいないらしい。 「どうしたの、箸が止まってるよ?食欲が無い?」 「あ、ううん。なんでもない」 そして、今あたしに話しかけてきた彼が……このギルドのヒーラーだ。 あたしより三つ年上の彼はその、まあ、なんというか、あたしの、いい人……っての? こんなあたしを女の子として見てくれる数少ない人で、大人しげだけどいざというときにはとても頼りになる。 初めて会ったときは単に童顔だなー、位にしか思わなかったけどこうして見るとなかなか……いい男だよね。 ……あー、おほん。 安全な場所で怪我した人を直すだけではなく脅威であるドラゴンを倒さなければならないと考えた彼は ハントマンになることを決意、ちょうど振り返った先でドラゴン退治について計画を立てていたあたしたちに 勢いで入団を希望して今に至る。 以上、これがうちのギルドのメンバー。 なかなかクセのある人達だけど、皆いい人なのはあたしが保障…… ……しまった。 すっかり紹介した気になっていたが、この人の事を最初に書くべきだった。 姉御に目を向ける。 寝乱れた長い黒髪で、メザシを口の端にくわえながら漬物に箸を伸ばす。 ……この人はこういうのが本当に絵になる人だ。 これが姉御。サムライだけど、さっき言ったとおりあたしの師匠。 そしてお世辞にも育ちの良くないあたしのお目付け役。 姉御と言う呼び名はこのギルドにお世話になることが決まったときびくびくしながら呼んだのが始まりだったが、 なんとなく定着して今でも基本的にこう呼んでいる。あとは気分でたまに師匠と呼ばせてもらっているが そういうときの姉御は口では『師匠と呼ぶなと言ったろう』とか言いながら何だかまんざらでもなさそうなので これからもたまに師匠と呼んでみようと思う。 居合と無手に鍛錬を欠かさず、普段大雑把に振舞ってはいても常にサムライの魂は忘れない。 そんな姉御が昔は斬馬系のサムライ崩れだったというから世の中はよくわからない。 カタナを扱う自己流の剣士として己が信じる道を往き、ブシドーだのなんだのを歯牙にもかけなかった姉御だが こっちに来て本物のサムライに出会いその教えに一転心酔、それまでのスタイルを捨て去って 名前まで変えたというんだから本当に極端な人だ。よっぽどどこか感銘を受けるところでもあったんだろう。 と、あたしの視線に気付いたのか、箸を咥えた姉御がこちらへ視線を送り返してくる。 「……なんだ?私の顔に何か……ご飯粒か?」 「すいません、なんでもないです」 ぺたぺたと頬をさわる姉御に首を振って否定する。 そうか、と食事を再開しようとした姉御はふと何か思い出したように持ち物を探り始めた。 「……そういえば福引で劇のペアチケットをもらったんだが……お前、一緒に来るか?」 ―――――――――――――――――――――――――― ああ、できない、私にはできない。 たとえ永久に手に入らないのだとしても、 この手でこの方に血を流させるなんて。 それならばいっそ、……私は、泡となって消えてしまおう…………… 「……っ……うぅ………」 「まだだ、エンディングまで泣くんじゃない」 そういう姉御の目には既に今にも溢れそうなほどの涙が揺れている。 あたしたちは文化ホールの一席に座り、遠い昔に書かれたというおとぎ話をモチーフにした劇を観賞していた。 「そんなこと言ったって……あ、姉御こそもう限界じゃないですか……」 「ば、馬鹿……目にゴミが入っただけだ」 「それならあたしだって、せっかくの、ペアチケットなのにっ、あたししか誘う人がいない姉御の不憫さを……」 みしっ。 「……痛い、超痛い」 「この、馬鹿………うう……」 「えうう………」 あたしも姉御も結局のところ、エンディングまで耐えることは出来なかった。 「副長もチケット持ってるみたいなこと言ってたけど見えませんね」 「午後から来るのかもしれないな」 「うー……それにしても久々に心から泣いた」 「やっぱ古くてもいいものはいいんだな……」 演劇終了後、あたし達は喫茶ルームでお茶にしていた。 国風に合った美しさで知られるミロスの劇場は、副長も一度来てみたいと言っていた話題のスポットだ。 しばらく無言で心と身体を温めなおした後、気分を変えるために話題をシフトしてみる。 「それにしても姉御、ほんとに誰か他に誘う人いなかったんですか?いやあたしは連れて来てもらってよかったけど」 「お前もしつこい奴だな……おらんと言ってるだろう。ほっといてくれ」 「だって……姉御24だよね?あと六年って長いようで短いですよー、姉御は婚活とかしなくていいんですか」 「……」 「……」 「……コンカツ………………あ、油揚げに衣を着けて揚げなおしたものとかか?」 ――駄目だこりゃ。 「……はぁ」 「え?違うのか?……え、えと、まさか本当に狐を揚げたりしないよな……? ちょ、ちょっと待て。じゃあ、ええと……」 「や、もういいです。姉御はつくづく恋愛に縁が無いってことだけ分かりました」 「なっ!?」 一瞬呆気に取られる姉御だが、やがて眉間に険悪な色が浮かんでくる。 「……って、何だと?お前最近ずいぶん態度がでかくなったんじゃないか……」 しかし悲しいかな、泣きはらした目のせいでご機嫌斜めの子供が頬を膨らましてるようにしか見えないんだよね。 はっきりいって怖くない。全然怖くない。 「だってそーじゃないですか。こちとら彼氏持ちですよ?そーゆー相手は普通外すか もしくはこれをやるから二人で行ってこい、ってのが大人の対応ってもんでしょ」 「ぐ……」 姉御がごにょごにょと詰まる。だって私だって見たかったし、とか言ってるみたいだ。 あのおっかなかった姉御に競り勝っていると言うささやかな優越感に浸っていると、姉御が話題を切り替えにかかった。 「……お前が誰と交際しようと勝手だがな、むしろもうちょっと慎めんのか? 仲良くするのはいいがそれにしたって恋人ができるなり暇さえあれば四六時中べたべたと……」 「なんですかそれ。ちゃんと戦う練習だってしてるじゃないですか、ダガーフェティシュだってレベル5まであげたし」 「あぁっ……、そういう問題じゃなくてな、……色ボケは少し控えろといってるんだ」 むっ。 色ボケとは言ってくれるじゃない。 あたしにあの虐待のような訓練を毎日受けさせた人の言うことだろうか。 ちなみに前回がソードマスタリー編とすると、今回はダガーフェティシュ編だ。 そりゃ最初の頃こそ 「握りが甘い、それだとすぐに吹っ飛ばされるぞ」 「はい」 「リラックスして構えることとゆるく構えることは違う、忘れるな」 「はい!」 「左旋回したときに半身が解けてるぞ!いかなるときも付け入る隙を与えるな!」 「はいっ!」 みたいなまともな訓練だった。 それがどうだ、最後にはまたもや置き去りで、しかも今度はまだフロワロの残っている洞窟だ。 フロワロが残っているということは当然『奴ら』がいるわけで…… 他にも色々ひどい目にあって、今日やっと休日なのだ。 ちなみに明日からは姉御と一対一の実践訓練、姉御から一本取れるまで続くらしい。 冗談じゃない、構えを取らず純粋な接近戦だけなら短剣が勝つのが当たり前だと姉御はいうが、 そんなこと絶対にありえないのは空を飛ぶ猫がいないくらい明らかだ。 とまあそんな訓練をサボりもせずやってきて色ボケとはあんまりだと思うんだよね。 あたしの口から棘を含んだ言葉が飛ぶ。 「色ボケって何ですか、あたしが今までやらなきゃいけないことすっぽかして遊んでたことありますか? 別に姉御が目に毒だっていうなら控えますけど何もそんな言い方しなくたって」 「だからそうじゃなく……いや確かにそういう意味でもあるんだが……」 「……」 「……」 「……」 「………夜」 「夜?」 「……夜、お前の部屋から声が聞こえてくる」 「……」 「……」 えーと、それって。 「――――――――――――!!?!??!?!!!?? な、な、な、なんっ………」 「それもアホのように毎夜毎夜。昨日だって寝ようとしたら……」 「ちょ、ちょっと待ってよ!?昨日は普通に寝ましたって!だって火曜と金曜はお休みにしようって……」 「……」 「……」 「あ、そ、そうか、悪かった」 「い、いや分かってくれればいいですけど」 「……」 「……」 「……え、週二日以外は毎晩?」 ……………………。 …… じ…… 自爆したーーーーーーー!? っていうか彼との夜の生活を曜日まで!? 羞恥と極限の混乱に陥りながらも、 あたしの耳は姉御の「なんだ、やっぱり色ボケじゃないか」と言うセリフを聞き逃さなかった。 くうぅっ。 恥ずかしい。消えてしまいたい!セクハラだ!……ええい、これも全部姉御のせいだっ!! あたしの心に理不尽な復習の炎が灯る。 心の奥からこみ上げるヤケクソ気味の羞恥に突き動かされ、あたしは報復の刃を抜いた。 「あ、姉御だって人の事いえないじゃないですか!? 昨日の晩、壁の向こうから一人で慰めてる声を聞かされてなかなか寝付けませんでしたよ! ……き、聞きたくなかったけど聞いちゃったんですからね!?」 「……」 「……」 「……………ええと」 え、何この反応。そんなナチュラルに困惑した顔をされても…… 「昨日から、私の部屋は一階に移ったんだが」 「え」 そうなの?とするとあの声は…… かちゃん。 音のしたほうに顔を向ける。 あ、いつの間に来たんですか副長。 どこにも見ないと思ったがやっぱり来たらしい。 建物自体のおしゃれさと劇場への期待で興奮しているみたい。 スプーンを取り落としたことにも気付かない様子で、緑色の髪と見事なクリスマスカラーのコントラストを作るほど 顔を 真っ赤に ……………………。 …… ご…… 誤爆したーーーーーーー!? 「いやあの」 「すっ……… ………すいませ……………………!!!」 誤魔化そうとする間もなく副長は泣きそうになりながら逃げ出した。 そのまま逃げていくかと思いきや、空気の読めないレジ員に止められて半泣きでお金を支払っている。 後に残された気まずい沈黙の中、あたしも冷静さを取り戻してきた。 「……お前、あれは」 「スイマセンでした、ほんとスイマセンでした」 「いや別に悪気が無いのは分かってるんだが……」 「うぅ、悪いことしたなぁ。姉御もなんかすいませんでした」 「あ、まあ、気にするな」 大きな犠牲を(副長が)払いながらもなんとなく和解する。 何か話す雰囲気でもなくなり、あたし達はしばらく無言でお茶をすすった。 …… しばらくして、下腹部に誰もが知るあの感覚が走る。 外に比べてここは石造りの大きな建物で気温は低いし、身体を冷やしたかな? 「すいません、トイレ行って来ていいですか」 「ああ、そこをまっすぐ行って突き当たりを右だ。しばらく行くと分かるはずだ」 「はい」 そうしてあたしは喫茶コーナーを離れ、トイレを探すために歩き出した。 「あ、右じゃなく左だったか……まあ案内も出てるしすぐ気付くだろ」 ―――――――――――――――――――――――――― ――現在、12時05分。 あたしは急ぐ。 なんだってこんな事になったんだろう。 まだまだ大丈夫だと思って迷子の親を捜してあげたのが間違いだったのか。 ううん、あれを間違いと言うほど不人情な人間ではないつもりだ。だけど、そのツケは今確実に来ている。 あたしが別のところに気を取られて気付かないでいるうちにそれはいつのまにか差し迫ったところまで来ていた。 意識した瞬間、時間経過で増大したそれはあたしから全ての余裕を奪う。 焦ってあたしは元の場所へ…… ……あたしは、自分のいる場所が分からなくなっていた。 そんなわけであたしは今、下腹部を刺す感覚に耐えながらトイレを探してこの広い建物をさまよっている。 一歩歩くごとに、着実に大きくなるその感覚。 おかしい。トイレはどこ?この西館どこかにはあるはずなのに…… ふと目を向けた先に、所狭しとプリントや張り紙が貼られている掲示板を見つける。 今も職員らしき女の子が脚立に上って新しい張り紙をしている最中だ。 もしかしたら館内の地図が載っているかもしれない。 そう判断したあたしは、その掲示板へと近寄っていった。 「遅いな………何やってるんだ?……何だか私もトイレに行きたくなってきたぞ……」 掲示板に近寄っていくあたしの先で、女の子が作業を終えたようだった。 張り紙をしている間前のめりだった身体を戻し、屈めていた背をうーんと伸ばす。 あ、危ないよ? そんな不安定なところで身体を反らしたりしたら後ろにひっくり返っ………ちゃったああああぁぁぁ!! 「ひぁっ……!?」 女の子の悲鳴になりかけた声が耳に届く。 あたしは反射的にダッシュをかけ、脚立ごと倒れてくる女の子の下に走りこんだ。 オーライ、このくらいなら楽勝で間に合うって…… どさっ。ガッシャアアアン。 「………!!!」 はっきり言って、このときの自分をほめてあげたい。 尿意のことも忘れて本気でダッシュした上、これだ。 確かに落下位置にいくのは楽勝だった。 だけど、あたしには生憎落ちてくる女の子を受け止めて姿勢を崩さない程の腕力は無いのだ。 当然のことながら、姿勢の悪さも手伝ってあたしは女の子を受け止めたまま床にしりもちを突き…… ……女の子が、下腹部に落ちた。 もう一度言おう。はっきり言って、このときの自分をほめてあげたい。 膀胱が破裂するかと思うような衝撃に声も出さず悶えるあたしに、女の子がおずおずと声をかけてくる。 「あ、あの!すいません、大丈夫ですか!?……あ!あの、私が落っこちたせいで何か怪我を……」 「だ、大丈夫、平気……」 「そう……ですか……?」 「うん……あ、それより……聞いてもいい?トイレ、どこ……?」 「え?」 不幸中の幸いだ、この子にトイレまでの最短距離を教えてもらおう。 「えと……一番近いトイレは反対側……東館の二階にありますけど。案内、出てませんでした?」 「………え?」 …… ……… …………姉御ーーーーーーー!? ……そろそろ本当に限界だ。 あたしは気の遠くなるような距離を踏破し、東館までやってきていた。 気の遠くなる距離といっても百メートル足らず、普段のあたしなら10秒とちょっとで走り抜けられる距離だ。 だけどもはや走ることすら出来ないあたしにとってそれは無限とも思える距離だった。 辛うじて普通の歩き方に見せているが、見る人が見ればあたしの歩き方の不自然さに気付くだろう。 あと少し、あと少し…… …… ……見えた! 東館二階、職員も使う小トイレ。男女用それぞれ1つずつしかないそのトイレのくすんだ扉も、 今のあたしには天国の扉に見える。 洗面所に入ってすぐ右側、『女子用』のプレート。あたしはそのドアノブに手をかける。 長かった……間に合ってよかった。 やっと、やっと。 やっと……… がたん ……………え? ドアノブに付いた小窓。 そこから覗く色は。 ……『使用中』を示す、赤、だった。 ―――――――――――――――――― ざーーー。 未だ被害を抑えるために無限と思える時間を耐え忍ぶギリギリの感覚。 そしてそれでも間に合わずに一部を漏らしてしまった絶望。 その二つが入り混じって奇妙な温度になっているあたしの頭に、遠くで水の流れる音が聞こえる。 そして、ドアの開く音。 「……こんなところで何してるんだ?」 聞こえるはずの無い声が聞こえてあたしは顔を上げる。 ……姉御? ………。 ああ、そうか。 姉御が入ってたのか。 姉御が入ってたからあたしは、 「……っ!」 「うわっ!?」 だっ。 ばたん。 かちゃかちゃかちゃ…… ――――――しばらくお待ちください―――――― ざーーー。 醒めた頭であたしは昨日の訓練を思い出す。 「常に半身で……グリップは柔らかくしっかりと……」 習ったことを呟きながら身支度をする……下着はトイレットペーパーに包んで捨てる。 ズボンに隠してある簡易ナイフを取り出し、しっかりと握る。 「……」 そして、何かに導かれるように、もう一本をこれまで使わなかった左手に握った。 「……よし」 よし、これで、戦える。 「……」 そしてあたしは、 「……っ!!」 ドアを蹴り開けた。 「どうし……うわっ!?」 「うわああああぁぁぁぁん!!」 「ちょっ、おい、ちょっと待て!いきなりなんだ!?」 「うるさい、うるさい、うるさああぁいっ!!」 「待てって!何だ!?何で泣いてるんだ!?私が何か悪いことをしたか!?」 ああ、ごめんね姉御。 本当は分かってるの。 姉御のあれはほんのちょっとした間違いで、あんなでかでかとした案内に気付かなかったあたしの過失の方が ずっと大きいんだって事は。 でも、でもね、姉御の言うことを疑わなかったあたしの最後の希望を、 よりによって姉御が打ち砕くのはあんまりだと思うんだ。 なんかもう、自分でもどうにもならない。誰かにこの怒りをぶつけないとやってられないの。 ほんとにごめんね、でも今だけは言わせて。 「姉御なんて…………だいっきらいだああああぁぁぁぁ!!!」 余談だが、翌日からの修行は一対一をすっ飛ばして次のステップに入った。 → 駆け出しローグの日記 アイゼンにて ← 駆け出しローグの日記
https://w.atwiki.jp/wga0twgj0tj/pages/26.html
加藤英美里 ◆部屋 ▼エントリー 『世界が僕を呼ぶのならっ!』 ▼参加 『待っていたよ』 ▼挨拶 喜『やぁ!』 哀『』 楽『』 ▼料理 『僕がかい?』 →(料理中) 『まぜまぜ……っと』 ▼ラウンジ 『全く……君は面白いよ』 ◆戦闘/汎用.ver ▼逃走 『では、ご機嫌よう』 ▼戦闘終了 A『エッヘン! スゴいだろう?』 B『歩みを止めてはイけないね』 C『君では相手にならないよ』 ▼レベルアップ A『僕の可能性は無限だ』 B『凄い力を感じるよ!』 ◆特殊 ▼対SKY 『ふぅ……わけがわからないよ』 ▼対ドラゴン A『』 B『』 ▼対帝竜 A『』 B『』 ▼対ミヅチ 『こんな事して、楽しかったかい?』 ▼対ラスボス 『この星は……君を拒絶する!』 ▼対人類戦士 『』 (31匹目 712)、(31匹目 800)、(34匹目 443)さんの情報を加えました。
https://w.atwiki.jp/nanadorakari/pages/25.html
・エロなし ・ハントマンもドラゴンも(今のところ)でてきません ・ネタバレはニギリオの宿まで。 いつもと変わらない朝。 いつもと変わらない目覚め。 いつもと変わらない一日を始めるために僕は粗末な寝床を後にした。 コレルという名の使用人がいる。 若くて健康で性格も良く、使用人としての適正に溢れた優良物件だ。 本人がそう言うんだから間違いない。 所はアイゼン、貴族街の周辺部に、僕の住み込むその小さな家はあった。 まずは箒を担いでそう広くもない庭と玄関を掃き清め、それが終わったら洗濯にとりかかる。 そろそろ買い換えなきゃダメかなとボロい物干し竿を見ながら洗濯物を干し終わると、 次は水汲みと雑巾がけに入らなきゃいけない。 家の要所をカラ拭き水拭きし終え、それじゃ洗濯物が乾くまで休憩でもするかと 本棚に寄りかかって一冊拝借しそのページを開こうとしたところで旦那様から声がかかった。 「おーい、コレル!」 一行も読むことなく本を戻し、書斎へ向かう。 広げた書簡にせわしく筆を走らせ、次々と文を書き連ねるのに合わせて 眼鏡越しの視線を言ったり来たりさせる長い黒髪で僕と同年代の青年は、 僕が戸を開けると目を向けてくる暇も無いように仕事を続けながら言った。 「来たか?悪いけどそろそろ昼にしてくれ、忙しすぎて腹が減ってきた」 「はーい」 あれが僕のご主人だ。 一家代々旦那様の家の使用人をしてきたその息子である僕は、幼い頃から旦那様と共に育ってきた。 とあることで旦那様の両親と僕の両親を一辺に失う悲劇に見舞われつつもどうにか二人でやってきたのだ。 とまあ、もし僕たちが異性同士だったらなんらかのロマンスが生まれていたかもしれないが、 あいにく僕も旦那様も男なのでそういったことはなかった。断じてなかった。 ……ともかく台所へ行き材料の確認をする。 ご飯の残りとくず野菜が少々。前もらってきた鶏肉の残りもそろそろ使ってしまおう。 火を起こして簡単に味付けしたお粥を作り、肉団子を入れる。 待つことしばし、よし完成。 出来たお粥を取り分ける。このとき肉団子は全て旦那様の方に入れるのが大人の常識というやつだ。 お椀を二つお盆に載せ、書斎へと取って返す。 「お待たせしましたー」 「お、じゃ昼にするか」 ずずー。 旦那様の前にお椀を置き、僕もそばにある小さな物書き机にかけて食べ始める。 ……うん、もうちょっと味が濃くてもよかったかな? 無言で食べ続ける旦那様は、その内ふと思い出したように口を開いた。 「ああ、そういや忘れてたけど言おうと思ってたことがあるんだが」 「はい?」 ずずー。かつかつ。 聞き返す間にも食事を続ける旦那様は、また少しお粥をすすり、そしてお椀を口から放してこう告げた。 「お前クビ」 こうして僕は、かの悪名高いニギリオの宿の門を叩くことになった。 森の中にただ一本通っている道を歩きながら考える。 人生なにがあるか分からないもんだなあと。 感慨に耽りつつ歩き続けているうち、やがて本当にこの先に何かあるのかと思ったほどの静かな一本道の先から 木々の匂いとは違う匂いが漂い、開けた土地が見えてくる。 程なく、僕の眼前に落ち着いた意匠のいかにも温泉宿といった建造物が現われた。 あれが今日からの僕の職場、ニギリオの宿だ。 その庭先に佇む従業員らしき女の人に、僕は近付いていった。 「あの」 「いらっしゃいませ~人類最後の桃源郷、ニギリオの……あれ?ルシェの……お客さん?」 「いえ、新しい使用人ですけど」 「ですよねー!」 「……」 ですよねーって。 まあ船に乗ってここまで来れたという分を差し引いても身なりを見れば丸分かりなんだけどさ。 「まあそういうことで来たんですけど……まずはどちらに伺えばいいですか?」 「そうですねー、入って左の受付に断ってから二階のご主人の部屋へ伺うといいと思いますよ」 「あ、丁寧にありがとうございます」 「いいえ~、これから同僚になるわけですし。お仕事は辛いですけど脱そ……めげないで一生懸命頑張ってくださいね~」 今脱走って言おうとしませんでした? さて。結局のところ僕はここに来ているわけだがもちろん黙ってクビになってきたわけじゃない。 『……クビ?今クビって言いました?』 『ああ言った、確かにお前クビと言った』 『……な』 『な?』 『なんでまたいきなり!?クビになるようなことをしでかした覚えはありませんよ……?』 『……まあな。そもそもお前がどうこうじゃなくてこっちの都合だからな』 『はあ……』 ちなみにこの間二人ともお粥をすすりながらの会話なので緊迫感もなにもありゃしない。 『とりあえずお前、ウチがしがない貧乏貴族だってことは知ってるな?』 『はいまあ、お金も地位も力も無いうだつのあがらない貧乏貴族であるという程度には』 『張っ倒すぞ。ともあれまあそういうことだ、……ぶっちゃけお前を雇っておくほどの金がなくなった』 『給料なんてもらった覚えがありませんよ』 『金があっても俺がお前に給料をやると思うか?』 『いいえ、全く』 『本当のことだがムカついてきたぞ。まあ、これ以上お前を食わせていけないのも本当だけどな』 『でもですね、でもですよ?いくらなんでも二十年近く連れ添ってきた僕を、 いきなりクビってのはあんまりじゃないかと!今まで築いてきた絆というものを考慮して頂けないですか』 『絆じゃ飯は食えない』 『うっわひどい!友情はプライスレス』 『……下らないことを言うな。』 『だってそうでしょう!ああこれまで僕が信じてきたものはなんだったんだろう。こんな鬼や悪魔のごとき所業を受けようとは』 『……食わせておけなくなったとはいえお前の再就職先だけはなんとか見つけておいたんだがな』 『神様仏様旦那様。やっぱ絆を信じてよかった』 『現金すぎるだろお前……まあ、とにかくそこへ行きゃ飯だけは何とかなるだろ。ニギリオの宿ってとこだが』 『……… ……え?ニギリオ?』 とまあ、そういうわけだ。お金が無いと言われちゃ居座っているわけにもいかない。 共倒れしたってしょうがないしね。 さて、受付も通っていよいよここの主、ジェンジェン爺とご対面だ。 使用人ネットワークの産物として僕もジェンジェン爺の噂は色々と耳にしている。 曰く、裏の世界の覇王。金の亡者。元マフィアの頭。 そのくせ根城に引っ込んで金儲けに勤しむ温泉宿の主人としての顔を持ってたりする偏屈ジジイ。 その裏の実態を知っているものは本人を除き一人もいない…… ……温泉宿の使用人として呼ばれたわけだし、そんなに心配しなくていい、はずだ。うん。 深呼吸を一つ、僕は支配人室に踏み込んだ。 「失礼します……」 「おおいらっしゃいま…………ってなんだ!」 部屋の中にいた黒髪の老人が振り返り、さっそくお小言が飛んできた。 「お客様かと思えば薄汚いルシェではないか!さっさと用を済ませて仕事に戻…… ……うん……?たしかお前の顔はまだ見たことが……」 いきなり叱咤モードに入りそうになった老人は、新顔である僕を見て一旦停止する。 人の出会いは最初が肝心、僕は背筋を伸ばしてはっきりと自己紹介した。 「あ、はい!以前こちらに伺いましたショウジュの家から新しくご奉公に参りました、コレルと申します。 至らないところもあると思いますが、一生懸命働かせていただきますのでどうぞよろしくお願いします!」 「……ふん。最近の者にしては多少躾が出来ているようだな。ショウジュ……?たしか……」 振り返った黒髪の小柄な老人は、再び机に戻って何か帳簿のようなものをめくり始めた。 これが、ジェンジェン爺。……驚くほどイメージどおりでちょっと怖い…… 「ショウジュ!そうか、あの糞生意気な若造だな!……そうか、お前か! 人を馬鹿にしくさった態度で使用人を紹介しましょうかなどといらなくなった穀潰しを押し付けてきおって!」 「す……すいま……」 なんて言い草だろうか。 当たってるだけに。 予想通り過ぎる人柄に毒を抜かれつつも、僕は次の言葉を待った。 「まったく……で、ここの使用人になりに来たとか言っておったな……」 「は、はい」 ジェンジェン爺は後ろを向いて何か別の冊子をめくって行く。 遠めに見る限り使用人の、名簿?……のようだ。 「ふん」 「……」 「小僧」 「はい!」 「働きに来たと言ったな」 「はい、どうぞよろしくおね」 「いらん、帰れ」 「ご無体なっ!!」 それはもう突然かつ完璧な宣告だった。 か・え・れ。帰れ。 ……前述の通り、僕には帰る場所がない。 帰れといわれて帰るわけにはいかないのだ。 【粘りますか?】 ……もちろん『YES』だ! 「なんじゃその目は!? ウチにはすでに十分な数の使用人が働いておる! 無駄な人員に払う金などないわ!」 【それでも粘りますか?】 『YES』 「帰れと言っとろうが! 何か?自分がよければこの零細経営の宿が苦しくなってもいいというのか!? なんと自分勝手な、ああこれだから近頃の若い奴は嫌なんじゃさっさと帰れ!」 【負けずに粘りますか?】 『YES』 「ええい……しつこいやつめ! これでもやるからさっさと帰れ!」 【パロの実を手に入れた!】 【…………死ぬ気で粘りますか?】 『……YES』 「なんじゃと!?これでも帰らないのか! ええい、それならやったものを返せ!」 【パロの実を取り上げられた!】 「……ふん、そこまで言うなら雇ってやってもいいぞ? その代わりここの使用人が一人泣くことになるがな、それが資本主義というものじゃしな!」 「!?」 「やれやれ、そうと決まればクビにする奴を決める作業にかからなくてはな。 心が痛むが仕方ないわい、一人を救えば一人が救われない、それが世の中というものじゃ。 諸行無常、盛者必衰、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。 後から来た奴が諦めれば万事丸く収まるのにな」 「……」 【……本当に、全力で、恥も外聞もなく、土下座して粘りますか?】 『YES』 「……心の底から申し上げます、どうぞ、これ以上、酷いこと仰らずここへ置いてくださいませんでしょうか」 「!?」 「どんな仕事でも喜んでやりますので、ほんとに、どうか、ちょっとでいいんで哀れみの心をお願いします、いやマジで……」 ……粘ること30分。どうにか僕は生きていく場所を手に入れた。 ―――――――――――――――――――― これが、僕がニギリオの宿で働くに至るまでの経緯だ。 ここらで一つ閑話休題を入れて頭をリセットしたいところではあるけれど、 残念ながらそんな話題もないので現在の僕の様子に移ろうと思う。 宿泊施設の朝は早い、めっちゃ早い。 日が昇る前に起きだし、僕は同僚達と共に仕事に取り掛かった。 ちなみに、僕たちが寝起きする宿舎についての描写は特にしないので自由に想像して欲しい。 たぶんそれで大体合ってる。 僕達の最初の作業は露天風呂の掃除だ。 お客さんの中には朝風呂という奴がめっぽう好きな人もいるわけで、彼らが起き出してくる前に 夜の間に落ちた葉っぱやらなんやらを片付けてぴかぴかに磨き上げておかなければならないのだ。 かき集めた落ち葉などを捨てに行くと、ちょうどゴミ出しに来ていた給仕の女性が声を掛けてきた。 「あ、おはよう。どう?そろそろ仕事には慣れた?」 「おはようございます。はい、しっかり教えてもらえるおかげでバッチリです」 「うん、クタベさん面倒見がいいもんね」 この人がニコレットさんだ。 僕より少し年上で、担当は違えど仕事に関することを色々と教えてくれる。 とても明るくいつも笑顔を絶やさないので皆から親しまれていて交友関係も広い。 ちなみに、さっき話の中に出てきたクタベさんというのは…… 「おぉい、立ち話もいいがきちんと仕事を片付けてからにしないとダメだぞ」 噂をすれば影。振り向けばクタベさんがデッキブラシを持って苦笑している。 「あ、すみません。じゃニコレットさんまた」 「私も仕事しなきゃ」 「さ、行こう」 そうしてニコレットさんは戻っていき、僕はクタベさんの後について歩き出した。 クタベさんはここの使用人達の中では年長の、ややくたびれた感のある男性だ。 けれど僕は、その小柄だけどがっしりした体躯や積み重ねた苦労が刻まれたかのようなシワをかっこいいと思ったりする。 後輩や新入りにも優しく、新入りである僕を同じ班に入れて色々面倒を見てくれるいい人だ。 「それにしてもなかなか飲み込みが早くて、助かるよ」 「あ、ありがとうございます。ずっと使用人だったんで、掃除とかは自然と分かるみたいです」 「ああ。だが、ここは大勢のお客様を相手にするところで家付きの使用人とはだいぶ違う。 そのあたりのことはやはりニコレットに教えてもらうといいかもしれないな」 「はい」 そう。生まれたときから使用人になることが決まっていたような人生を送ってきたおかげで 仕事自体はそう苦にならないが、やっぱりお客さんを相手にするというのは違う。 使用人としてはともかく接客業のスキルがない僕はまだまだ仕事を任せられるレベルじゃないということだ。 少しでも早く仕事を任せられるレベルにならねばと誓いつつ、後は黙々と作業をする。 掃除しなければいけないところはいくらでもあるし、水を汲んだり食材を運んだりとやることは尽きないのだ。 ただでさえ無理やりここの使用人に納まったことでジェンジェン爺からいい目で見られていない僕は、 評価向上のためにそりゃもう馬車馬のように働くほか無かった。 ただ、今だから思えることがある。あの時『働きたい』と言ったからあんなに帰れ帰れ言われたのであって もし『働きたくない』と言っていたら速攻で働かせてもらえたんではなかろうか。 ……そんな訳無いよね。そんな訳無いと思うことにしよう。 「……ふぅっ」 とりあえず仕事は一段落着いた。 もちろん掃除なんてのは一日中やってたって足りないわけだし一日の仕事はまだ始まったばかりだが、 とりあえずお客さんが起きて来るまでにやらなければいけないことは終わった。 この後は朝食を取った後、いくらやっても終わりの無いエンドレス掃除タイムに入ることになる。 それにしても。 一つ一つの仕事が苦にはならないとは言ったが、全体的なキツさとしては相当な感がある。 まだ仕事はいくらでもあるのに、足腰の筋肉は微妙にだるい。 この調子で身体を酷使していけば、行く末は『貧相なくせにガチガチ』と揶揄される 典型的な小作人体格になっていくこと請け合いだ。ま、今でも微妙にそうなんだけどさ。 しかし、こうしているとなんだかまんざらでもない感覚と共にこんなフレーズが浮かんでくる。 ……労働って、いいね! 「……なに爽やか気取ってやがんだか……」 見られてたよ。 若干バツの悪い思いをしながら振り返ると、そこには 不機嫌そうな視線を投げる短髪の青年が一人座り込んでいる。 「……えと、すいません」 とりあえずなんだか気に障ったらしいので謝っておくが、 どうやら先輩殿の機嫌は思ったより悪いらしかった。 「けっ、別に謝ってもらわなくたっていいけどよ。 あのクソジジイにこき使われてんのに、それを喜んでやってる奴がいると思うと嫌になんだよ」 「はぁ」 ……成程。これが無理やりつれてこられたクチか。 知っての通り、ここで働いている人達の事情には二種類ある。 一つは僕のようにこの不況で勤め先が無くなり、ここに身を寄せて来るタイプ。 そしてもう一つが、詐欺に遭ったり借金のかたに売られたりしてここで働くよりなくなったタイプだ。 目の前にいる先輩はどうやら後者のようだった。 「……先輩は、どうしてここに?」 今思えばここで黙ってればよかったのだろうが、僕は地雷原に続く一歩目を踏み出してしまった。 案の定先輩は険悪度を上げた視線を向けてくる。 「……騙されて連れて来られたんだよ。んなこと聞いてどうするってんだ」 「いや……ここで働いているのが不満なような感じだったんで、なんとなく」 「ここで働くのが、だ?いちいちすっとぼけたこと言ってイラつかせてくれる野郎だな…… いいか?俺はな、金持ちだの権力者だのそういう奴らが皆だいっ嫌いなんだよ。 俺達みたいな底辺層を踏み台にして自分が得することばかり考えてやがる、 そーゆー奴らに尻尾振ってる奴も俺は大嫌いだ」 「……」 むう。 さすがの僕でも『尻尾振る奴』が誰を指しているのかは分かった。 随分と嫌われてるなあ。 さて、こんなところでケンカ腰になるほど分別が無いつもりは無いけどここで引き下がって それこそ尻尾を振るしか能のないやつだと思われてもつまらない。 一応説得を試みては見よう。 「……これでも尻尾振ってるつもりは無いんですよ? ただなんていうか、性格的に仕事はきっちりしないと気が済まないっていうか」 「仕事、ね」 「………… いけませんか?自分の仕事ちゃんとやるってのはおかしいことじゃないと思いますけど」 「いけねえなんて言ってねえよ、ただ使う側の奴らに良い顔してんのが気にいらねえだけだ」 「良い顔したいんじゃなくて仕事をちゃんとしたいだけだって言ってるじゃないですか……!」 まずい、険悪な雰囲気になるのが止められない。 だけどここで引き下がるわけにはいかなかった。 好むと好まざるとに関わらずずっと使用人をやってきて、それなりに使用人であることの誇りも美学もある。 それを根底からぶち壊されるようなことを言われて、黙っているわけにはいかないのだ。 「大体、聞いてれば使う側の人をよく思ってないことは分かりますけど。 元々が使用人なんて使う主人がいて初めて成り立つ商売じゃないですか。そのことを踏まえた上で 使用人としての誇りを持ってやってるんだから、他人にとやかく言われることじゃないと思います」 「誇りだ!?使用人の?そんなもんが本当にあると思うか? 雇う側の都合であれだこれだ指図されて所有物として扱われて、牛や馬とどこが違うんだよ!」 「牛、馬、所有物で結構です!自分の財産を大事にしない人がいますか!? 働かせるために雇った人材にわざわざ意地悪して働けなくしたり長続きしないようにさせる人がいますか! 自由が少ないのは事実ですけど、少なくとも使用人だって真面目にやってりゃそれなりに幸せになれるじゃないですか! そんなことも考えられないんですか?」 「……」 「……」 「……ああそうかよ」 彼は立ち上がった。 こちらを真っ直ぐに睨みながらつかつかと歩み寄ってくる。 「そうだろうな。お前の言ってることは間違ってねーだろうさ。 で、悪口ばかりで真面目にやらねー俺はたるんでるだけだと。結構だよ。 でもな」 そして彼は、右手で向こうを指差した。 「あいつに同じことが通じるか?」 彼が指差したのは、重そうな水桶を運ぶ小さな女の子だった。 その身体に見合わない大きな桶を提げ、懸命に運んでいる。 「あいつだけじゃねえ。ここには小さい奴も身体の弱い奴もいるのは知ってんだろ。 そいつらはな、使用人が向かないからってやめるわけにはいかねえんだよ。 その自由が無いことは大したことじゃねえのか?俺は納得いかねえんだよ」 「……ぅ」 「確かにお前みたいな健康で良く働く馬なら大事にしてもらえるだろうけどな。 病気の馬やヨボヨボになって働けなくなった馬はどうだ?下手すりゃ処分されるだけじゃねえか!」 ……ヘコんだ。 完膚なきまでにヘコんだ。 あのあとまた仕事に戻り、今は昼の休憩だ。 どうも僕が精神的にやられたことは顔に出ていたらしく、クタベさんにかなり心配されてしまった。 「……はぁ」 「どーしたの、そんな暗い顔して」 「ニコレットさん」 本当に余程ダダ漏れらしい。ニコレットさんまで声をかけて来た。 「いえ……なんでもないです」 「なんでもなくないでしょ。ま、無理に話せとは言わないけど」 「……すいません。どう言えばいいのか分からなくて」 「気にしない気にしない。さ、元気出して。もう休憩終わりよ」 (……反論できるだろうか) あの先輩の言ったことは事実だ。 僕にとっては従属なんて苦痛でもなんでもないが、それはあくまで『僕にとっては』だ。 思えば僕はいい環境に恵まれて居たのだろうが、そうでない人だっている。 そんな人たちが居るということを踏まえた上で僕はどう振舞うのが正しいだろうか。 世を嘆きながらなるべく嫌そうにしているとか? そんなわきゃ無い。 ………。 (……なんかだんだん腹が立ってきたぞ) そもそも僕は何でこんな事で頭を悩ませてなきゃいけないのだろうか。 これは社会の問題であって、一介の使用人である僕が考えなきゃいけないことじゃないはずだ。 せっかく温泉宿なんて珍しいロケーションでの使用人ライフを送れると思ってたのに…… (……あ) あの子だ。 相変わらずその小さな身体では無理のある仕事を懸命にこなしている。 「……」 僕は黙って彼女に近付いた。 「あ」 「よっと」 水桶を引き取り、ポカンとして見上げてくるその子に聞く。 「どこまで持っていくの?これで終わり?」 「え?え、えと、お風呂の入り口に置くんですの。それで、お客さんが使って無くなったらまた……」 「分かった。じゃ早く戻してお客さんのチェックに戻ろう」 それだけ言って駆け足で浴場入り口へと向かう。 呆気に取られていた女の子も一拍遅れて付いてきた。 「……ここでいい?」 「は、はいですの、あの」 「じゃあ、また無くなったら呼んでくれる? 桶を運ぶのは僕のほうが向いてるから、その間お客さんの相手をしてて」 「でも、あの、それじゃお兄さんの仕事が」 「大丈夫、僕は働き盛りだからその分たくさん仕事をしなきゃいけないんだもの」 じゃ、と言い残して自分の仕事場へ戻る。 「……」 デッキブラシを手に取った。 気合いが漲る。 傍目からはさぞ間抜けに見えるだろうが、今の僕の心は巨大なドラゴンに立ち向かうハントマンのようだ。 「いくぞ」 そうだ。なんかもう吹っ切れた。 さっきのことは我ながらなかなかの偽善っぷりだった。 他人を手伝ってる暇があったら自分の仕事をしろという嘲りが聞こえるようだ。 ……なら自分の分と他人の分を引いてもお釣りが来るくらい仕事すれば問題なしだ! 「てやああぁぁー!」 気力満点、僕は猛烈さの中にも丁寧さを忘れない心構えで一気に仕事の殲滅にかかった。 「……ふぅっ!」 非常に疲れたがそれもこの充足感を思えば吹っ飛んでしまおうというものだ。 受け持った掃除箇所をいつもより一時間ほど早く掃除し終え、 余った時間で夕食の準備でてんてこ舞いの厨房へ材料を運んだり水汲みを手伝ってきた。 仕事がはかどったという事実はこうも自尊心を満足させる。 「……今度はなんなんだ」 あの先輩が箒を手に立っていた。 その表情はどことなく呆れているようにも見える。 ぎろりとねめつけ、僕は言った。 「…………こうしないと、自分のスジが通せないんですよ!何か文句ありますか?」 「何も言ってねえだろ!?なんでつっかかってくんだよ!」 「朝方散々つっかかって来たのはそっちじゃないですか!」 びっ!と人差し指を突きつける。 「ええ、ええ、そりゃ世の中いい人ばかりじゃないし僕と違って辛い思いしてる人もたくさんいますよ! じゃあどうしろってんですか!百歩譲って不愉快なのは分かりますけど、 それなら一緒にいやーな顔してれば満足なんですか?違うでしょう!? じゃあどうしろってんですか!!僕に何が出来ます?何も出来やしませんよ!!」 「逆切れかよ!?」 「逆切れでなにが悪いんですか!人の使用人ライフに水を挿すようなことばっか言って!」 「悪かったな!でもな、これだけは譲れねーぞ! 仕事のためだろーとなんだろーと、それで無理に仕事させられる奴らのことを仕方ないなんて」 「誰が言うんですか!そういうときは助け合うでしょう!?」 「ん、おう」 「だいたいどうにもならないことがあるからってウジウジしててもしょうがないじゃないですか、 それならそれなりにせめてマシな環境を作れるように知恵を絞るのが前向きな生き方でしょう」 「ああ、で……」 「別にお互いに支えあっちゃいけないとか言われてる訳でもなし、 最終的に仕事さえできてりゃここの主人なんかは満足するんだから 適当にこっちで工夫すればいいんですよ!大体……」 「だから、その……ちょっと待て」 「与えられた……はい?なんですか?」 「えと、あの、な? ……俺は別にお前があのクソジジイの手駒になるんじゃないかと心配してるだけで、 お前のポリシーを否定したいわけじゃないってかむしろどうでもいいというか……」 「…… …………ええーーーーー!?」 「ええーって言われても」 「え、だって、それじゃ僕は何のためにあんなに悩んだり……」 「知るかよそんな事」 ……なんということだろう。 あまりのことに僕はがっくりと膝をつき、思いっきり脱力してへたりこんだ。 ああ、気力が尽きた。 あからさまにやる気のなくなった僕に、先輩は念を押すように聞く。 「で、もういっぺん聞くぞ。身体の弱い奴調子の悪い奴、立場の弱い奴を監視する方になったりは……」 「しませんよ、そんなこと」 「……そうか」 一拍、間が空く。 「……じゃ、お前もちゃんとした『仲間』なんだな。疑って悪かった」 「あ」 差し出された手を見る。 やがて、段々と、僕は理解することができた。 新しい友達ができたのだ。 たった今失われた気力がもう戻ってきた。 我ながら分かりやすいと思いつつも、その手をしっかりと握り返す。 「……どうも。これからよろしく」 「へっ」 そうして僕の仲間は一人増える。 ここへ来たときはどうなるかと思ったが、ニコレットさん、クタベさん、そしてまた一人分かり合える人ができた。 この分なら新しい生活にもきっとすぐなじむことが出来るだろう。 そう信じるのに十分なこの一日は、後に他にも色々な人たちと仲良くなるのに大きな自信を与えてくれた。 …… 眠くなってきた。 まだ彼女のことを書くところまでいっていないが、明日も早いし今日はこの辺でやめにしよう。 所はアイゼン、東の半島。そこにある温泉宿で、僕は明日も働いているだろう。
https://w.atwiki.jp/nanadorakari/pages/33.html
最近ますます仕事に身が入るようになってきた。 きっとここで働くことを通していろいろ楽しいことがあるからだと思う。 ところで、これを読んでいる君の時代、君の住む国には主にルシェか人間、どちらが住んでいるだろうか。 あるいは両方? 君の時代にはどうだか知らないが、少なくとも今現在ルシェと人間の男女が添い遂げることはかなり大変なことだった。 二種族が平等じゃない国に生まれたら高確率でアウトだし、 そもそも種族が違うゆえに本能的なストッパーがかかるせいで恋愛感情を持つ場合自体が少ないと言われている。 おまけに例え結ばれても、ルシェと人間との間には子供が生まれない。 いや、生まれないことはないのだが極めて生まれにくいというべきか。 奇跡的に子供が出来たとしても、ルシェとも人間とも違う姿をしたその子は どこの国でも好奇の目で見られることになる。 ルシェと人間とが結ばれるということは、そういう茨の道なのだ。 ……だけど。 それでも、どんな苦難が待ち受けていたとしても愛さえあれば…… そう思わせてしまうのが愛という物なのかもしれない。 ―――――――――――――――――――― コレルです。 今日もこのニギリオの宿で低賃金重労働に励む僕の生活は、 最近とみに張り合いが出てきて楽しいことこの上ない。 その原因は、今僕の隣で同じように掃除用具を抱える彼女だ。 バレッタさん。 はるばるアイゼンにやってきたところ詐欺に遭い、ここに置き去りにされた生粋のネバン・ルシェだ。 そんな不幸にもめげず、今は帰国の旅費を稼ぐためにここで働いている。 若干気性が荒いのが玉にキズだが、その威勢のよさからは思いつかないくらい物分りがいい人だし、 何より生来のさっぱりした性格がうけてネバン人にもかかわらずここの人たちにもすんなりと受け入れられた。 ちなみに僕としては。 ここで働くことになったのも不本意そうながら、やることになった以上はしっかりやると 不慣れな様子で一生懸命仕事に励む彼女を見ていると、なんというか、こう…… できれば二人でお茶したいです。 休日何それ食べられるの?な僕には縁のないことではあるのだけれど。 「今日から私も正規シフトね」 「そうだね」 彼女の新人研修も終了し、今日からは正式な戦力としてフル回転してもらう。 仕事に関しての基本的なことは僕とニコレットさんとクタベさんの三人がかりで教え込んであった。 「よっし、やるからには徹底的に、ここのベテランにも負けない手際を見せてやるわ。 ネバン式の掃除を目に焼き付けることね」 「それはいいんだけど。掃除の仕方が乱暴で床に傷がつきそうなんだよなぁ……」 「ええ?あのくらいやんなきゃ汚れも落ちないし、磨けないんじゃない?」 「ネバンプレスとは建築様式も床材も違うんだよ、もっと丁寧にやってもらわないと」 「むう。仕方ないわね」 口を尖らせる彼女に少し笑いをこぼし、 それからもう一つ注意しておくことがあったのを思い出して笑いを引っ込める。 「ああ、それと。いくら掃除・雑用方面の従業員だって言っても、 バレッタさんは給仕服を着てるからお客さんから話しかけられることがあると思うんだ」 「そういえばそうね。……分かった。任せといて、接客だってバッチリこなして――」 「いや、そういう時は無理せず僕を呼んで」 「……………」 げしっ。 ローキックが飛んできた。 ちなみに、先程彼女の事を若干気性が荒いと評したけど実際どのくらい気性が荒いのかというと、 本来彼女は女性なので給仕として接客に回されるはずが (建前上は男女平等ってことになってるけど、実際野郎より女の子に給仕してもらった方が嬉しいよね) ジェン爺の『こんな奴をお客様の前に出せるか』という理由で使用人に回される事になったという程度だ。 ただ、使用人用の制服で彼女に合う物が無かったため格好だけは給仕服だったりする。 ついでに言うと彼女は割と脚癖が悪く、怒らせると高確率でキックが飛んでくる。 ネバンプレスにいた頃はコミュニケーションの一つと言ってもいいくらいだったそうだが、 最近僕がネバン・ルシェほど屈強ではないということを理解してくれたらしく 当たってもそんなに痛くないくらいには手加減してくれるようになった。 ただ、彼女にはそれとは別に思いもかけないことがあると反射的にキックを見舞うという悪癖があり (この前はモップの持ち方を指導しようとしたらうっかり手を握ってしまい蹴り倒された) この場合は無意識なので手加減の仕様もなく大概ノックアウトされる羽目になる。 正直なんとかして欲しい。 「今日も元気そうだな」 とまあそうこうしているうちにクタベさんがやってきた。 改めてこれから初仕事ということで、バレッタさんが真面目な顔で気をつけの姿勢をとる。 「バレッタは今日から本格的に仕事開始だな」 「はい」 「まあ、特別に気負う必要はないから教えたとおりにやりなさい。頼んだぞ?」 「はい!」 「それと、コレル」 「なんですか?」 「コレルにはバレッタと組んで貰おうと思う。先輩として色々手助けしてやるんだぞ」 「えぇっ!?」 「……何よ、嫌なの?」 「え!?う、ううん!そんな事ないよ」 そんな事はない。むしろ願ったり叶ったりだ。 でも、なぜ? 知っての通り僕もせいぜい勤務数ヶ月で、新米もいいところだ。 彼女の付き添い役としては不適当なんじゃなかろうか。 ……もしかして、気を回されてる? いやいやいや。クタベさんは気のいい人だけど、そんな理由ではさすがにないだろう。 だけど……願ってもない機会なのは事実だ。 ここはひとつ、好感度アップを狙ってみようかな? というわけで僕は自分の仕事をこなしつつ、積極的に彼女のサポートをしてみることにした。 掃き掃除では細かくアドバイスを出し、水汲みのときは彼女の分まで少し多めに運ぶ。 他の作業でもあれこれここはこうするといいだとかこれはそうすれば楽だとか一々世話を焼いた。 ……そして。 水を替えに行くついでに彼女の手にある花瓶を渡してもらおうと手を出したところで彼女が顔を上げた。 「……あのさ」 「うん?」 「私って、見ててそんなにトロい?」 「え」 「それとも危なっかしくて見てられない?それならはっきり言ってくれる」 「いや、そんなこと」 「だったらそんなに一々構わないで。 そりゃ、あんたと比べたら手際が悪いのは分かってるけど。さすがにこれじゃやる気が失せるわ」 「……ごめんなさい」 僕がうなだれると彼女は顔を戻し、また黙々と掃除の続きに入った。 …………… 前途は多難なようです。 ―――――――――――――――――――― そのお客さんがやってきたのは僕達が玄関先の庭を掃いているときのことだった。 「誰か来たわよ」 ニギリオの宿を背にして真っ直ぐ見た先に細く伸びる、森の外へと続く長い小道。 その小道から二人連れのお客さんがやってくる。 「ほんとだ」 いらっしゃいませと声をかけるにも微妙な距離だったので、 そこはかとなく気付かない振りをして掃除を続けつつ横目で確認する。 珍しいことに、それは質素な旅行用のコートを来たルシェの青年だった。 その後ろにはマントを羽織り、大きなフードを被った女性らしき人が歩いている。 時折後ろの女性を気遣うように振り返りつつ、青年はこちらに近付いてきていた。 十分距離が近付いたところで、僕は改めて顔を上げる。 「いらっしゃいませ」 「いらっしゃいませー」 僕とバレッタさんが続けて挨拶すると、二人は少し逡巡した様子で立ち止まった。 「あ……はい、どうも」 「どうも。……あの、つかぬ事をお聞きしたいんですが」 女性の方がおずおずといった感じで返事をし、青年の方が軽く頭を下げてから問いかけてくる。 「なんですか?」 「あの……こちらではルシェだけで泊まることもできるでしょうか?」 ああ、なるほど。 封建的なアイゼンにおいて、特に本国に伝わっているだろうニギリオの評判を聞いていれば 門前払いを食わされないかどうか心配になっても仕方ないというものだ。 僕は二人の心配を吹き飛ばすべく、とびきりの営業スマイルを浮かべつつ言う。 「はい、大丈夫ですよ。うちの主人はお金さえ払えばドラゴンでも泊める人ですので」 「……………」 いかん、ジョークを飛ばしすぎたか? 少し心配になったが、青年の方が気を取り直した様子で「そ、そうですか」と返したので流すことにした。 「では、どうも」 「はい。ごゆっくりどうぞ」 「……」 青年が歩き出し女性の方もぺこり、と頭を下げて青年に続く。 僕はそのまま見送ろうとした。 と、そのとき、脇を通り過ぎる女性の横顔を見たバレッタさんが『あれ?』という顔をした。 釣られて僕も女性の顔に目を向ける。 ……おや、ほんとだ。 少し迷ったが、結局僕はその二人を呼び止めた。 「あの」 「はい?」 なんだろう、と行った感じで二人が振り向く。 「大変不躾な質問をさせてもらいたいのですが……」 「なんですか?」 「その……お二人はどのような関係で?」 その質問をすると、当然のことながら二人の顔にはいぶかしむ表情が浮かんだ。 「……それがなにか」 おっと、警戒心を呼び起こしてしまっただろうか。 そう思った僕は、慌てて弁解するように両手を振った。 「あ、いやその深い意味はないんです!ないんですけど、その…… …… 人間とルシェのお客様の組み合わせの場合、一応お二人の関係を聞いておかないと ご不快な思いをさせる場合がありますので!」 ぴたり。 二人の反応が止まった。 「……あれ?」 何かまずいことを言ったかな? 戸惑う僕達。 しばしの沈黙の後、やがて女性の方は、ゆっくりと、頭を覆っていたフードを外した。 「……………」 ツヤのある黒髪が流れ、側頭部にその髪の中から覗く耳が見える。 ああ、やっぱり。 よかった、うっかり見違えてルシェの人を人間と呼んでしまったのかと思った。 女性が口を開く。 「……何故、分かったんですか……?耳は隠れていたと思うんですが……」 なるほど。 どうして二人が絶句したのか、ようやく納得がいった。 耳を隠した状態でいれば、連れからして自分もルシェと見られると思っていたのか。 しかしどう答えたもんだろう?僕とバレッタさんは顔を見合わせた。 「何故、って言われても……、ねえ?」 「なんとなく、としか言いようがないわよね」 「なんとなくで分かるものなんですか……?」 二人が困ったように顔を見合わせている。 思いもよらないところでつまづいた、そんな感じだ。 少しの間重く沈んだ沈黙が流れ、青年の方が顔を上げた。 「あの……」 「って、ああ、いや、問題があるわけじゃありませんよ!? 事情がお有りでしたらこれ以上詮索もしませんし、他の人にも黙っておきます! なんでしたらあの、受付とか僕が代わりに部屋を指定しましょうか……?」 「え、ああ……じゃあ、お願いできますか?それと私たちのことも一応」 「はい、何も知らなかったことにします、ね?」 「あ、うん。じゃなかった、はい」 「それじゃこちらへどうぞ。えと、できるだけ人の集まるところから離れた部屋でいいですか?」 青年の方が肯き、女性がフードを被りなおす。 そして僕は二人を先導し、宿の中へと案内していった。 ―――――――――――――――――――― 「なんだったんだろうな、あの二人」 僕は仕事に戻りつつ、あの二人の事を考えていた。 人目を忍ぶようにやってきた年若い二人連れ。 「なんだか世間慣れしてない感じだったよな」 普通人には国ごと、あるいは民族ごとにある程度共通した外見の特徴があり、 その人がどこの人なのかは顔つきを見れば大体分かるものだ。 同じように人間とルシェも大体見れば分かるもので。 それが分からないとなると……あまりたくさんの人に接することのない上級貴族。 あとはあの青年の女性の扱い方からするに、貴族の娘とその専属使用人といったところだろうか。 それならあの二人に漂っていた微妙な箱入り感にも頷ける。 と、その組み合わせで考えられることといえば。 「駆け落ちかな?」 確証はないが、なんとなくそんな気がした。 あの二人の世を儚んだような雰囲気がそう思わせたのかもしれない。 と、気が付けば手が止まっていた。 いけないいけない……そういやバレッタさんは? 「だーかーら!ここは禁煙だって何回言えば分かってくれんのよ!!」 「げ」 言わんこっちゃない。 お客さんとトラブルの真っ最中だ。 「固いこと言うなって、ここには他に客もいないしよ、迷惑をかけてるわけじゃねえだろ?」 それは壮年のお侍さんだった。 廊下のベンチに腰掛け、地団太を踏んで憤る彼女をよそに煙管をふかしている。 そして言葉を交わすたび彼女のボルテージは上がっていく最中だった。 「他に客がいようがいなかろうが、ここでタバコはダメなの!」 「お前さんなぁ……こっちが煙草を吸う権利だって考えてくれてもいいだろうよ」 「禁煙場所での喫煙権なんて知ったこっちゃないわ!とにかく……」 「ったく……これだから話の通じない亜人層の下働きはよう……」 「な、ぁ、ん、で、す、っ、て……!!」 やばいっ! ネバン・ルシェに『亜人』は禁句だ! 「ふざっ……!」 「ストーップ!落ち着いて、下がって!」 「コレル……」 「申し訳ありませんお客様、働き始めて間もないんでうまくご案内できないんです! ここではではおタバコを吸うお客様も吸わないお客様も快適に過ごしてもらえるように、 喫煙場所と禁煙場所を分けてあります。あちらが喫煙場所になりますので、ご協力願えませんでしょうか!?」 彼女を背中に押しやりつつ必死で弁解をまくし立てる。 幸いお客さんは大して腹も立てずに納得してくれた。 「ん、ああ、喫煙所があるのか……分かったよ、最初ッからそういってくれりゃ……」 「ありがとうございます……」 のしのしと喫煙場所に向かって歩いていくお侍さんをホッとしつつ見送る。 がるるると唸りつつきっ!と中指を立てるのを慌てて下ろさせると、彼女は憤然とそっぽを向いた。 「ふんっ!」 「……………」 「……何よ?」 「別に……」 どうして僕が彼女と組まされたのか、分かった気がした…… ―――――――――――――――――――― 「……ってことがあったんだ」 「そりゃお前、確実に押し付けられてるだろ」 「やっぱそう思います?」 夕方の休憩時間、僕達は使用人控え室にいた。 ちょうどそこにいたハンコツさんも交え、座って休みながら雑談する。 「僕だって新米でとてもバレッタさんをカバーしきれないのに。 でも、使用人頭の仕事だけじゃなくてジェン爺に反抗的なメンバーのご機嫌とって 働かせるのもクタベさんの仕事だしなぁ、文句つけるにはちょっと可哀想だし」 「そうだよな、あの人いっつも苦労ばっかしてよ」 「反抗的なメンバーの代表格みたいなハンコツさんが何を言うか。 どうせならニコレットさんを見習ってくださいよ、 きちんと働きがてら経営のノウハウを盗んでいつか独立してジェン爺を見返してやるとか、 ハンコツさんもあんなんならクタベさんも楽なのに」 「わかっちゃいるけどよ。なんかあのジジイに指図されるとやる気無くすんだよな」 「もう……と、バレッタさんはまだ機嫌悪いまんまだし」 「当たり前よ」 「客に殴りかかりそうだったってくらいだからな……って、いつものことか」 「なんですって」 「落ち着いて」 本当にやれやれだ。 バレッタさんの肩を抑えつつ、ふとそこで僕はあることを思い出した。 「あ、そうだ。そろそろあの二人に食事の事を聞きに行かないと」 「うん?……ああ、あの二人ね。私も行くわ」 二人連れでやってきた男女のお客さんの事を思い出して席を立つと、彼女も続いて立ち上がった。 残ったハンコツさんが首をかしげて聞いてくる。 「誰のことだ?」 「ちょっと」 「ん、おう」 と一旦納得してから、 「……なんだ、もう二人の秘密を作る仲になったのか」 意地悪げな顔でニヤニヤとした笑いをハンコツさんは向けてくる。 おのれ、人の気持ちは知ってるくせにからかったな。 「そういう悪趣味な冗談は……」 僕は苦い顔で文句を言おうとする。 言い終わるより先に、彼女がフロントキックで椅子ごとハンコツさんを蹴り倒した。 唖然とする僕の目の前で派手な音とともに椅子が倒れ、何かを打ちつけたようなゴンという音が響く。 「私、そういう冗談は嫌いなの」 「いつつつつこの暴力女……」 「ふんっ。いくわよ、コレル」 「え……い、イエッサー」 ハンコツさんのことは気になったが、僕は彼女について部屋を後にした。 ずんずんと先に進む彼女の背中を追いかける。 それにしても、さっきのは少しだけ驚いた。 口より先に手が出るを体現するような彼女のこととはいえ椅子ごと蹴り倒すなんて…… もしかして、相手が僕だったからとか? うう、そんなに嫌われているつもりはないんだけど…… 「コレル」 「っ!」 と、急に彼女が立ち止まってこちらを向いた。 「な、何?」 どぎまぎしながら答える。 「……………あの二人の部屋って、どっち?」 「……こっち……」 彼女を連れて、僕はニギリオの宿の端っこのある部屋に向かう。 「お風呂からも裏庭からも離れたところを選んだのね」 「できるだけ人と会いたくないみたいだったから。受付にも食事のお伺いとかは不要みたいだって 伝えておいたから、変わりに僕達が行っておかないとね。あ、そこだよ」 やがて見えてきた一室を指差し、僕は立ち止まった。 「ここ?」 「そう。って、あ」 「ここね」 その僕が指差した部屋の戸に、彼女がためらいなく手をかける。 「ちょっ、ノックが先……」 「失礼しまーす」 制止する間もなく彼女はその勢いのまま戸を開け、 そして凍りついた。 まあ、なんというか。 『自分の部屋に恋人を連れ込んで、取り留めのない話をしているうち空気が桃色に、 だんだんそんな気分になってきて、そしていざ事に及ぼうとしたところで 空気の読めない姉が部屋のドアを開けた』 そんな状況だった。 凍り付いているのは向こうも同じ、とてつもなく長く思える数瞬が流れる。 「……失礼しましたっ!!」 いち早く我に返った僕は彼女の襟首を引っ掴んで引き戻すように戸を閉める。 フリーズしたままの彼女を支えつつ待っていると、部屋の中からは身繕いのごそごそと言う音が聞こえてきた。 しばらくして、音が聞こえなくなったところを見計らって声を掛ける。 「この部屋へご案内した者です、入ってもいいですか?」 「ほんっとうにごめんなさい」 「いえ……鍵をかけ忘れたこちらにも非はあるので」 少しして、僕達は気まずい空気で向かい合っていた。 僕の隣ではバレッタさんが、こちらに来てから知った土下座の知識をフル活用して畳に耳を伏せさせている。 それをどうにか顔を上げさせ、女性の方が口を開いた。 「……私達、駆け落ちしてきたんです」 もう隠す意味もないだろうということで、僕達は二人の事情を聞かせてもらっている。 案の定この二人はアイゼン本土のさる名家の一人娘とその元使用人だった。 「引き取っていただいた恩を返すため、この十年と少々身を粉にして奉公させていただきました。 使用人としてならないことをしたのはお嬢様を好きになったことくらいでしょうか」 「私はいけないことだとは思わないわ」 「まあアイゼンの、それも上流貴族じゃね」 「はい……私の父や母も、彼と結ばれることを許してはくれませんでした」 「それで駆け落ちか……昔はあったみたいですけど、今時はなかなか聞かないですよね。 古典にも身分違いのために結ばれることを許されなかった男女が心中する話が……あ」 途中で失言に気付いて二人の様子を窺う。 幸いなことに、青年はやや照れくさそうにこう言ってくれた。 「はは……私達は死にませんよ。生きて、添い遂げて見せます。 旦那様や奥様を裏切ってお嬢様を連れてきた以上、きっと幸せにしてみせる。そういう意味でも」 「ふふっ。嬉しいです、そう言って貰えて。 ただ、どうせなら『お嬢様』はもうやめて、名前で呼んで欲しいのですけど。 もう私はお嬢様じゃなくて、貴方に呼び捨てで呼んでもらえる存在になりたくてここまで来たんですから」 「あ……。そう、ですねお嬢様……じゃなかった、その……」 まったくもって。 僕はこの二人に心から幸せになって欲しいと思った。 隣ではバレッタさんも同じ意見らしく、両手を固く胸で握り合わせながらうんうんと頷いている。 僕達からの視線に気付くと、二人は今更ながら少し照れた。 しばらく暖かい空気を漂わせた後、やや改まって二人はこちらを向く。 「それで……ですね。図々しいとは思うのですが」 僕達は再び控え室に取って返した。 今度は二人を連れて。 「ただいまー」 「お帰なさ……っ!?そ、そそそそちらの方は?」 そこにいたのはハンコツさんだけでなく、出迎えたのはヒキエさんだった。 ヒキエさんは同僚の中でも顔見知りの一人で、ニコレットさんと同じ接客担当だ。 極度の人見知りという、接客業では致命的なんじゃないかと思える性格をしていて お客さんに話しかけられるたびに噛みまくっているが、案外普通に仕事をしていたりする。 そのヒキエさんが僕達の後ろの二人を見て竦みあがってしまったため、一応二人を紹介することにした。 「はぁ……駆け落ちしてきたんですか」 「そ。人目を忍んで来たんだから言いふらしたりしたらダメよ?」 「ははいもちろんです!」 自分の方が年上にもかかわらずおどおどするヒキエさんだが、一旦落ち着いて席に座りなおすと 少し落ち着いたのかそれで、というように口を開いた。 「で……それは分かったんですけど、どうしてわざわざこちらに? あ、いえ、詮索するつもりじゃないんですごめんなさいごめんなさい」 「落ち着けよ」 「それを今から話すから」 お茶を一口すすり、女性がここに来た理由を話し始めた。 「アイゼンを出ようにも、私達二人だけではトドワの丘を越えるなどとてもできません。 それ以前に竹林すら抜けられるかどうか…… となれば船で出るしかないのですが、民間船や商業船では北海を越えて北へはいけませんし」 「そこで思い当たったんですが、こちらならこっそりと北へ密航させてくれる方も現われると 以前聞いていて……それでこちらへ来たんです」 そうなのだ。 先程僕達に二人が聞いた事というのは、ここに出没する裏業者の情報だった。 生憎そちらには詳しくない僕達は、誰か知っている人がいないかとご飯を食べさせるのもかねて二人を連れて来たわけだ。 「実を言うと、アイゼンからここまでは正規の船で来たのです。 旦那様がお嬢……彼女を連れ戻そうとしたなら、私達がここに来たのはすぐ分かってしまうでしょう。 そしてほぼ間違いなく旦那様は彼女を連れ戻そうとします」 「ですからできるだけ早く、父の手の者がここに来る前にミロスに入りたいのです。 ミロスに入ってしまいさえすれば、おいそれと連れ戻されることもないでしょうから」 その通りだ。 アイゼン育ちには少し慣れない国ではあるが、あそこほど弱者に味方になってくれる国も他に無い。 僕が頷くと、そこでバレッタさんがおもむろに肩をすくめた。 「ただ、ね。急ぐのはいいけど、気を付けた方がいいわよ? 密航させてくれるってだけならいいけど、そうやって人を騙して売り飛ばすような輩もいるんだから」 「そうです!人攫いはすっごく怖いですよ!」 珍しくヒキエさんが身を乗り出し大声で同意する。 「ヒキエさんは、確か……」 「はい……かれこれ十年位前に人攫いにあって、売られてきたんです。 どうされるのか、どこへ連れて行かれるのか、怖くて怖くてたまらなかった…… だから、絶対人攫いには捕まっちゃダメです」 真剣で重みのある言葉に二人が重く頷いた。 「そもそも、売る方も売る方なら買うほうも買う方だよな。 ここの強欲ジジイといいホイホイと人攫いなんかから人を買うなってんだ」 「はい、ここに連れて来られて、働かせられるのは辛いです。 でも、もしここに買われなくて済んだら、っていう条件でやり直せたとしてもそんな勇気もないです。 もしかしたらここよりひどい、身体を売らされるようなところに売られていたかもしれないし 最悪買い手がつかずに足手まといで殺されていたかも……」 「ふざけてるわ!」 バレッタさんが激昂した様子で吐き捨てる。 そのままイライラと指で組んだ腕を叩き、彼女は不満をこぼし始めた。 「大体、そこの二人が付き合うのを許さなかった両親といい 人身売買といい、どうしてこうもアイゼンではルシェへの蔑視がまかり通ってるのかしら!? アイゼンに来た頃だって理由もなく見下されて片っ端から蹴り飛ばしてやろうかと思ったわよ!」 「アイゼン人の立場から弁護させてもらうと、そんな人ばかりでもないよ……」 「そんな奴だっているじゃない。あんたもねー、どうしてそういう連中に腹が立たないわけ?」 「お、それは前から俺も思ってた」 「どうしてって……そうだなあ、ジェン爺も含めてそういう人ってさ、 別に僕達がルシェだから見下してるわけじゃなくて社会的に階級が下だから見下してると思うんだ。 そう思えば腹も立たないかなと」 「……………」 なんか可哀想な人を見る目で見られた。 「え、あの」 「そう……よね。うんまあ、そのとおりよね」 「そうだな。社会的な階級だからだよな」 「ちょっと待ってなんでそこだけ優しくなるのさ違う誤解だって! 確かに分かりにくかったかもしれないけどそんな、ああなんかいい例えはないかな…… ……あ、そうだ!こんな例えはどうかな!?」 「ん……どんな例えよ?」 同僚に可哀想な人だと思われる最悪の事態を避けるため、必死に考えて案を搾り出す。 まだ若干疑惑の目で見てくる二人に僕は、その例えを出した。 「血液型占いでさ、そういう占いに凝ってる人に あなたはB型だから自己中心的です、そうならないように注意しなさいって言われたら殺してやりたくなるけど 統計をとった結果B型は比較的自己中心的な人が多いことが分かりました、だからあなたも注意してくださいって 言われたらそんなに腹は立たないでしょ?」 「あー分かる分かるその例えなら分かるぞ!!すっげえムカつくもんなあれ!」 「え゛……そ、そう……?そんなにムカつくの……?殺したくなるくらい……?」 「当たり前だろ!こっちはそんなもん信じてもないってのにさもそれが世の中の常識ですみたいな顔して偉そうに 根拠も何もないガセ話を垂れ流すんだぞ!?あげく毎回毎回B型に恨みでもあんのかってくらいこき下ろしやがって……」 「で、でも、たかが占いだしそんなに目くじら立てることもないんじゃない? えと、あんたは?コレルはどうなの?あんたもその、血液型占いやってる奴は……嫌い……?」 「……確かにたかが占いだけど、そういうのを信じてもない人に押し付ける人とは僕は仲良く出来ないかな」 「あう」 「だよな!こっちは信じてもねえのにお前らのカルト宗教を押し付けるなってんだ! お前らは仏教徒に、食事前のお祈りをしなさいとでも言うのかよ!」 「ブツブツ……知らなかった……コレルは血液型占いは……そっか……」 幸いなことに、どうやらこの例えで二人の共感を得られたようだった。 なんか二人して微妙にずれた反応を返してきている気もしないではないけど。 と、お客さん二人の視線に気付いて振りかえる。 「……………」 「あ、ごめんなさい置いてけぼりにしちゃって」 「いえ」 「ニコレットさんとかなら知ってるかなと思ったんだけど、仕方ない、こっちから探しに行こうかな。 ちょっと探してくるんでご飯食べて待っててもらえますか」 「すいません。お手数おかけします」 「ニコレットなら休憩所で見ましたよ」 「どうも」 僕が立ち上がると、バレッタさんも席を立ってきた。 「気が削げたわ……私も行こうかな」 「また一緒に行くのか。こりゃ案外的外れでも……」 「シッ」 後ろ回し蹴りでまたもハンコツさんを蹴り倒し、彼女は僕に顔を向けた。 「さ、行きましょ」 休憩所への道を歩きつつ、僕は少し考える。 「どうせなら、ニコレットさんじゃなくて情報通のアリエッタ姐さんに聞いてみようかな……」 「アリエッタ?」 アリエッタ姐さん。『薄幸少女アリエッタ』『抱きしめたくなる可愛さ』『無垢なる刃』など様々な二つ名を持つ ニギリオ一の情報通だ。無口で交友関係も狭いが、人に愛される才能に優れた人でもある。 「私あの人根暗で苦手なのよね……」 「宿中のアリエッタファンを敵に回すよ」 「分かってるって、苦手なだけよ」 「いいけど。ニコレットさんとアリエッタ姐さんは同じシフトだからそばに居るはず…… あの二人のためにも信用できる人を見つけたいね」 「そうね。この時代に駆け落ちなんてなかなか出来ることじゃないわ。 それにあの女の人のセリフもかっこよかっ…… ……ところで、さ」 言葉の途中、何かを思い出したように彼女は僕に振り返る。 なんだろう?さりげなさを装って普段言わないことを言おうとしてるようにも見えるけど。 「何?バレッタさん」 「それよ。その……いつまで私のことさん付けで呼ぶのよ?」 ちょっとバツが悪いように目を背けながら彼女が聞いた。 僕は首を傾げる。確かに僕は彼女をさん付けで呼んでいる、そこを聞かれるとは思わなかったなあ。 「えーと……」 「いや、その、一応同じ場所で暮らしてる仲間なんだし?あんたならまあ、 呼びたいなら呼び捨てにしてもいいかなって……あ、いや別に大した意味は無いのよ?別に――」 「あー、そうなんだよね」 「そう呼んで欲しいわけじゃ……え?」 「いやさ、確かに僕もさん付けはちょっと他人行儀かなって思ってたんだ。 けど呼び捨てはさすがになれなれしいし、かといってちゃん付けじゃあんまりでしょ? 他にも色々考えたんだけどどれもイマイチで」 「……………」 「で結局総合的に考えればやっぱりさん付けが無難かと……どうしたの?」 「……………」 ごすっ。 脛の真横につま先が入った。しかも今回は痛い、地味に痛い。 「あいたたた……いきなり何するのさ」 「うるさい」 きっぱりと吐き捨て振り返りもせずに彼女は歩き出す。 そして三歩もいかずに止まる。 「?」 その背後から顔を出して前を覗くと、僕達の行く先、数メートル先にあの見覚えのある人物がいた。 あのお侍さんだ。 彼女の顔には最初っから隠す気のカケラも無く『嫌なときに嫌な奴に会った』という表情が浮かんでいる。 きょろきょろとあたりを見回していたお侍さんは、僕達を見つけるとすぐ近寄ってきた。 彼女が即座にUターンして僕の背後で止まる。 「おう、お前らちょうどいい所であったな。ちょっと聞きたいことがあってな」 「……なんですか?」 「便所の場所だ!いやな、ちぃと食いすぎたのか食ったものが押し出してきてよ」 「トチニカイニ・・・」 「……向こうの角です……………」 「おう」 彼女ほどじゃないが若干呆れながら向こうを指差す。 お侍さんが歩き出すとともに、僕達もまたその場を去ろうとした。 「ところで」 ふいに後ろから飛んできた声に足が止まる。 振り返ると、腕を組んで意味深な笑いを浮かべたサムライの男性が顔だけ向けてこちらを見ていた。 「なんですか?」 「いや、なに」 不敵な表情のまま、ただ一言。 「ここに、人間の女と亜人の男の二人連れは来てないか?」 「っ」 声は殺した、と思う。表情も出さなかった、と思う。 内心の焦りを押し殺して、僕は努めて平素を装って言った。 「いえ、知りません」 「本当に?」 「はい。 ……あの、どうしてそんな事を?お知り合いですか?」 怪訝な顔を作って首をかしげ、妙な質問にいぶかしむふうを演技してみせる。 内心の緊張を抑えようとして右手を固く握り締める。 「いや、なに。……っと、便所に行くんだった。漏れちまうな」 と、そこで侍の男性は話を打ち切った。 そのまま向こうを向き、お手洗いの方に歩きだす。 僕と彼女はそこに留まってじっとその背中を見送り、その姿が角に消えるや顔を見合わせた。 「……大変だ!」 どちらからともなく振り返り、もと来た道を駆け足で戻りだす。 「今のって」 「間違いないよね?」 「え、ええ……それを聞いてんのよ」 わからない。 ただ、雰囲気からしてあの人が何かを知っているのは確かだった。 確証を得ないまま僕達は控え室に駆け戻り、食事を取っている二人を呼ぶ。 「どうしたんですか?」 慌てて戻ってきた僕達を見て、男性が怪訝な顔をした。 「急いで食べ終わって!もしかしたら追っ手がもう来てるかも知れない」 「!!」 「壮年の髭を生やしたお侍さんなんだけど……二人とも、知ってる人?」 かいつまんで今あったことを話し、ついでにその人の特徴を簡単に伝えて知人か聞く。 二人が首を横に振った。 知人ではないということだ。 「じゃ、ここを離れたほうがいいわね」 困惑した顔をしながら二人が立ち上がる。 立ち上がって、しかし、と男性が立ち尽くした。